★★★☆☆
あらすじ
破格の待遇でメンフィスの事務所にスカウトされ、働き始めた新人弁護士は、ふとしたきっかけで事務所が行う不正に気付く。
感想
ハーバード大ロースクールの秀才である主人公が、さまざまな法律事務所から猛烈な勧誘を受ける冒頭のシーンはすごい。各事務所が必死にアピールしていて、普通の就活とは完全に立場が逆だ。将来有望なスポーツ選手たちもプロからこんな感じで勧誘を受けているのだろう。一度くらい、こんな気分を味わってみたいものだ。
トム・クルーズ演じる主人公はそんな立場なのだから、さぞや裕福な家庭で育ったのだろうと思ったら、貧しい家庭の出で苦学して今の立場まで這いあがり、すでに結婚もしているという設定で、ギャップがあっていい。理想もあるだろうが、ハングリーさも持っていることを窺わせる。
そんな主人公が破格の条件で就職することにしたのは、メンフィスの法律事務所だ。新入りの引っ越し作業を社員の奥さんたちが手伝ってくれるような、家庭的な雰囲気を売りにしている。最高の環境のように思えたが、やがて主人公は、事務所がマフィアのマネーロンダリングを行なっていることを知る。
家庭的な雰囲気を売りにする事務所がなぜ？と思ってしまうが、結婚や子供を持つことを推奨し、妻には専業主婦を求める、という事務所の方針は、よく考えてみれば、ファミリーの結束を大事にするマフィアのやり方と全く同じだ。家族の存在や破格の条件が彼らを保身に走らせ、盗聴や盗撮で弱みを握って裏切ろうとする者にはそれをチラつかせる。
しかし弁護士はひどい人種だ、というのが定番のジョークになるくらいなのだから、わざわざ新人を騙して連れてこなくても、多少怪しいことはしてますが給料は良いですよと勧誘すれば、少々倫理観のおかしい優秀な弁護士はたくさんやってきそうなものだが。金で釣ったり弱みを握ったりして、希望に燃える若者を悪事に走らせるよりもコストは安く済みそうだ。
やがてマフィアの悪事を追うFBIからも、新人という事から目を付けられ、協力を求められる主人公。ここで単純に協力に応じてもいいのだが、そうはしないのがこの映画の面白い所だろう。事務所の情報をFBIに渡してしまうと、顧客の情報を守るという弁護士の守秘義務を破る事になり、弁護士資格を失う事になる。さらにはマフィアの恨みを買って、一生復讐に怯えて暮らさなければならないという、おまけまでついてくる。
ようやく成功を掴みかけたのに、そんな事になってしまっては今までの苦労が水の泡だ。だからと言って要請に応じずそのまま仕事を続ければ、いつかマフィアが捕まった時に、共犯の法律事務所の一員として自分も逮捕されてしまう。そんな八方ふさがりの中で、なんとか活路を見いだそうとする主人公の姿が描かれていく。
秘密裏に動いていた主人公が、ついに事務所に気付かれて追われる事になるクライマックスは、音楽でサスペンス感を盛り上げる。ちょっと古臭く感じてしまうのだが、でも趣があって意外と悪くなかった。ようやく訪れたアクションシーンに張り切っているトム・クルーズも面白い。急にアクションスターっぽい動きになる。
それから、主人公の先輩の同僚役としてジーン・ハックマンが登場する。おそらく彼は、弁護士の矜持を失わなかった主人公とは対照的な、事務所に丸め込まれてしまった象徴として描かれているのだろうが、とても分かりにくい。家庭的な雰囲気の事務所なのに、同僚の妻を誘惑するのは違和感があった。ときどき悔恨の様子を見せたり、まだ純粋な主人公に羨望のまなざしを向けたり、逆に露悪的になるとか、もっと効果的に描いて欲しかった。あまり彼の存在に意味を感じることができなかった。
スタッフ／キャスト
監督／製作
脚本 ロバート・タウン／デヴィッド・レイフィール／デヴィッド・レーブ
出演
ジーン・トリプルホーン／エド・ハリス／ホリー・ハンター／ハル・ホルブルック／デヴィッド・ストラザーン／ウィルフォード・ブリムリー／ゲイリー・ビジー／ジェリー・ハーディン／テリー・キニー／スティーヴン・ヒル／トビン・ベル／ジェリー・ワイントローブ／カリーナ・ロンバード／マーゴ・マーティンデイル／ディーン・ノリス
音楽 デイヴ・グルーシン
