★★☆☆☆
あらすじ
女衒の男に嫁いだ女の愛憎の半生。タイトルの読みは「櫂(かい)」。高知三部作の第3作目。134分。
感想
十朱幸代演じる主人公は、女衒の妻としてかいがいしく働いてきたが、夫の浮気をきっかけに心が離れていく。ただ夫の職業的にも時代的にも、浮気していてもおかしくないと思っていたので、彼女の動揺ぶりは意外だった。それまで夫が浮気したことはなかったのかとか、主人公は不倫をどう考えていて、夫はそれを知っていたのか等を事前にちゃんと描いて欲しかった。
映画は万事そんな調子で、いろいろな事が起こるわりにはすべてが中途半端な描き方だ。緒形拳演じる夫は義侠心のある男とされていたが、それが窺えるシーンはほとんどなかったし、むしろ家族に対しては塩対応をしている。彼が高知で権力を握っていく過程も全然見えない。女児を2回引き取っており、そのうち何かが起きるのだろうと思っていたのに、ただすくすくと育っただけだったのには脱力した。その他の子供たちの話もあてどない。
ただ、主人公の次男のクズっぷりは際立っていた。学生の時から放蕩し、兄に心配をかけた上で事件に巻き込んで死なせてしまうし、自分は刃傷沙汰で服役する。服役中は出所したら親孝行をするなどと殊勝なことを言いながら、いざ出てきたら母親を足蹴にして好き勝手にやりたい放題だ。男の身勝手ぶりを象徴するような存在だった。
心が離れた主人公に対して、好き勝手する自分が悪いのに、強気で居丈高に接する夫が良く分からなかった。主人公が言うように、彼女は謝らなければいけない事は何一つしていない。根底には、妻が自分の仕事を快く思っていない事に対するわだかまりがあるようだが、あまり物語からは読み取れなかった。権力を手にして、世の中を思い通りに動かせるようになって来たのに、言うことを聞かない妻に腹が立ったという事なのだろう。
色々と描こうとして結局何も描けなかった、ただ長いだけの映画だ。
スタッフ/キャスト
監督 五社英雄
出演 緒形拳/十朱幸代/石原真理子/高橋かおり/真行寺君枝/名取裕子/白都真理/島田正吾/成田三樹夫/草笛光子/ハナ肇/左とん平/桜金造/藤山直美/片桐竜次/島田紳助
音楽 長戸大幸
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