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「父ありき」 1942

父ありき

★★★★☆

 

あらすじ

 子供が中学の寄宿舎に入って以来、ずっと離れて暮らすことになった父一人子一人の親子。

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感想

 息子の中学入学以来、離れ離れで暮らすことになった親子の姿が描かれる。20年ほどの長い月日が描かれるのだが、ダイナミックに時間と場所が変わっていくのが印象的だ。教師の父親が教室で修学旅行についての話を始めた次のシーンではもう修学旅行の真っ最中だったり、中学生の息子に東京で働くことを告げた次のシーンではすでに東京で働いており、息子も大学生になっていたりする。

 

 最初の40分ほどで一気に息子が小学生から社会人になってしまう小気味のよい展開だ。しかもその間に親子の間であったであろう出来事がちゃんと想像できるようになっている。それぞれを短いシーンで表現し、それをつなぐだけで10数年の親子の情をしっかりと描いてしまう見事な演出だ。

 

 

 社会人になった息子は、中学生以来ずっと離れ離れだった父親と一緒に暮らすことを今でも夢見ている。25歳の大の男がそんなことを強く思っているなんてなんだか違和感があるが、そういう事情もあったし、家父長制の当時は父親と長男はひとつ屋根の下でずっと一緒に暮らすのが当然のことだったのだろう。息子がいつまでも強く父を想う気持ちに胸を打たれる。

 

 一方の父親も同様に、心の底では息子と共に暮らすことを望みながらも、まずやるべことをやらなければと自分を律している。事故の責任を感じてもはや続けることはできないと教師をすっぱりやめて田舎に戻り、続いて息子を大学にやるために東京に稼ぎに出る。まずは人として恥ずかしくない生き方をするべきだ、という彼の方針が見て取れ、息子にもそんな生き方を望んでいる。

 

 彼の態度は確かに立派だが、そこまで自分に厳しくしなくてもいいのでは?と思ってしまう。しかし、教師を辞めたにもかかわらず教え子たちに慕われて同窓会に招かれるところなどは、彼の生き方が間違っていないことを示している。この同窓会で見せた教え子に対する丁寧な言葉遣いには、彼の人柄がよく表れていた。息子に対しても頭ごなしに命令することはなく、言って聞かせるような物言いで、成人してからはちゃんと一人の人間として敬意をもって接しようとしていた。

 

 そのうちに一緒に暮らせるだろうと思いながら、いつまで経っても暮らせない親子。人生のままならないところだが、ままあることではある。「いつか」はいつまでも来ない。それでも常に互いに互いを思いやる親子の気持ちが窺えて、じんわりと胸が熱くなる。時が経っても変わらない釣りのシーンが象徴的だった。悲しい結末ではあったが、それでも息子が言っていたように悪くない最後だったのかもしれない。きっと父親も納得しているはずだ。

 

 古い映画なので録音状態が悪く、セリフを聞き取るのに苦労したが、そんな中で秋田の生徒の方言を使ったセリフが全く何を言っているのか分からなかったのには笑ってしまった。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本

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出演

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/佐野周二/佐分利信/坂本武/三井弘次

 

撮影    厚田雄治

 

父ありき

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  • 笠智衆
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父ありき - Wikipedia

 

 

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