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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「記憶の盆をどり」 2019

記憶の盆をどり (講談社文庫)

★★★☆☆

 

内容

 時々記憶があやふやになってしまう物書きの男の家に謎の女がやって来る表題作他、全9編の短編集。

 

感想

 収められた短編9編がどれも毛並みの違う物語に仕上がっており、まずそれに感心する。妖怪モノや時代劇ミステリ風、説話調など、各短編ごとにスタイルを変えつつも、著者独自のオリジナリティは失っていない。いろんな作風をただやってみたという感じではなく、どれも自分のものになっている。

 

 そんな中で目を引いたのは、タイトルからして既に面白い「ずぶ濡れの邦彦」だ。いつ何時も決して走らないことが結婚の条件だった女と夫婦になった男の物語で、その不条理ともいえる制約に対する思いなどが語られていく。それが最後にそんな結末を迎えるのかと、意外の念に打たれてしまった。そういうテイストもやるのだなと新鮮だった。

 

 

 だが、こだわりを持った人間同士でも、長い時間を共に過ごしているうちに、それらがなあなあな、ぼんやりとしたものになっていくことは割とある、というかそれが普通のことなのかもしれない。それに相手が自分のこだわりを知った上でそれでもそれを無視した行動を取ろうとしたのなら、その行為に対して色々と感ずることもあるだろう。夫婦の機微が感じられる作品だ。

 

 最後に収められた、ロックで身を立てることを志す少年を諭そうとする「少年の改良」も、著者のロック観が窺い知れるような内容で興味深い。

 

 続けて読んでも飽きることのない短編集だ。

 

著者

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