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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「情事」 1960

情事 [DVD]

★★★☆☆

 

あらすじ

 ヨット旅で立ち寄った孤島で行方不明となった女を探す恋人と友人は、次第に惹かれ合うようになる。141分。

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感想

 序盤の女が行方不明となるシーンは、不可解さに満ちている。簡単に全体を見て回れるくらいの小さな島で、女が見当たらなくなったとなればザワつきそうなものだが、同行者たちに慌てた素振りはない。必死に捜索する様子もなく、ただフラフラと皆が所在なさげにふらつき歩いているだけに見える。警察への届け出にしても、そういうルールだから従っただけ、とでもいうような熱量だ。

 

 島から戻っても女の安否を気遣って皆が一ヶ所に詰めることもなく、あっさりとそれぞれの日常に戻って行ってしまった。なんとなくメンバーは、女は恋人と喧嘩していたので怒って一人で帰ったのだろうと考えているようだったが、普通に考えて島から簡単に帰れるわけがない。可能性としては泳いで帰ったか、誰かの船に乗せてもらったかくらいしか思いつかないが、どちらも無理がある。それよりも事故で転落したと考える方が自然だろう。

 

 同行者たちの失踪に対する冷淡さは、彼らが属する上流階級の上っ面だけの希薄な付き合いを示唆しているのかもしれない。彼らは金持ち同士で利益を享受するコネクションを保つために付き合っているに過ぎない。だから美味しい部分は共有するが、そうでなかったらあっさりと切り捨ててしまうのだろう。

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 女の失踪は彼らにとって何の利益にもならないものだ。だから、形式的に探す素振りをしただけで、一人で帰ったのだと結論付けることで話を終わらせてしまった。いずれにしても、ここで感じた不可解さは、映画の最後までずっと観客の心に付きまとうことになる。

 

 そんな中でそれでも女の恋人は、彼女の捜索を続ける。恋人だから当たり前だろうとは思うのだが、女がいなくなった直後、すぐにその友人にちょっかいを出しているのだからなかなかの軽薄ぶりだ。これも体裁を保つための素振りでしかなかったのかもしれない。言い寄られた友人もまんざらではなく、二人は情事を重ねるようになる。

 

 

 集まった情報を頼りに女を探す旅は、二人の情事旅行へと様相が変わってしまった。たまに女が罪悪感を見せるが、男は将来の夢を語ったりとなかなか楽しげだ。

 

 旅が続く中、男が更なる軽薄さを見せてラストを迎える。ベタな展開だなと思ってしまったが、ここからが斬新だった。なんでお前が泣いているんだよとか、それでお前は許すのかよとか、短い時間で何度もツッコミを入れたくなるような出来事が立て続けに起きる。驚かされっ放しの結末だった。

 

 部分部分で見ればベタなメロドラマだが、全体で見ると人間の訳の分からない生きものぶりが浮かび上がってくる物語だ。上流階級に限らず、人々の言葉と行動は普通に裏腹だ。結局女の失踪について何も明らかにされないままなのも、スッキリとしない後味に一役買っているが、このどんよりとした余韻はそんなに悪くない。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 ミケランジェロ・アントニオーニ

 

出演 ガブリエル・フェルゼッティ/モニカ・ヴィッティ/レア・マッサリ

 

情事 [DVD]

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情事 (1960年の映画) - Wikipedia

 

 

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