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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「菜の花の沖」 1982

菜の花の沖〈1〉 (文春文庫)

★★★☆☆

 

著者 司馬遼太郎

 

 淡路島の貧しい農村に生まれた高田屋嘉兵衛は、やがて船に乗り蝦夷地との交易に乗り出す。

 

 江戸時代って職業が固定されて簡単に色々な職に就けないものだって思っていたけどそうでもなかったようだ。この高田屋嘉兵衛ももともとは農民だが商人になっている。確かに耕す田畑もないのに百姓もできないのだろうけど。働き口を求めて他の職に就くのも当然かもしれない。

 

 彼の少年時代の壮絶ないじめにあう話と著者のそれに対する考察はタイムリーなだけになかなか興味深い。本当に日本にだけ顕著に見られる構造なのか、実際はよく分からないけど確かに日本は拒絶から入るよな、って感じる。とりあえず拒絶してそれを乗り越えたものだけ受け入れる。またはそれを利用して仲間の結束を図る。これは人だけじゃなくてモノにも言えて、何か新しいものが登場したとき手放しで素晴らしいっていう事は少なくて、批判的な意見を聞くことの方が多い。それが少しずつ世間に受け入れられ出すと何食わぬ顔で自分も手にしているようなイメージ。

 

 この本を手にしたきっかけは近江商人の「三方よし」に代表されるような商人の理念に興味を持ったからだが、商人の話というよりも船乗りの話だった。そしてこの小説の中では近江商人はえげつない存在として描かれている。「三方よし」などの理念はこの後のものなのか、それとも一部の商人だけのものなのかはこの小説だけではわからない。ただ兵庫の北風家とかそういう理念の商人は存在している。

 

 貨幣を得るために人々が欲しがるものを調達して売るという行為、貨幣経済という経済活動は人々の生活を変えるものだなと実感させられる。人々は魅力的なものを欲しがるし、商人はそれを供給するために遠方まで仕入れに出かけ、商品は世界中を動いている。当時ですら商人の行動範囲は日本全国に及び、鎖国下の日本で外国製品は奇妙な経路を辿り流入してくる。人々の欲望は恐ろしい。だけどこれが世界を動かしているんだな。

 

 後半は高田屋嘉兵衛の生涯というよりもロシアの話になる。思い返せば歴史の授業でペリーが来航する前に北海道の方で何かロシアがやってたという記憶があるが、地理的に近いロシアの方が当時は脅威だったのかもしれない。その後の日露戦争なども考えるとロシアって日本にとって気にかけなければいけない大国なんだなって今更ながら実感した。

菜の花の沖〈1〉 (文春文庫)

菜の花の沖〈1〉 (文春文庫)

 

  

登場する人物

高田屋嘉兵衛 / 近藤重蔵 / 大黒屋光太夫 / 伊能忠敬 / ゴローニン

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