★★★☆☆
あらすじ
大学進学のために上京した男の一年。
感想
どこかとぼけた文章で、主人公の上京一年目の生活が綴られる。時代はバブル期前夜。バイトでチップを一万円もらったり、仲間とクルージングしたり、土地売買のきな臭い話が出てきたりと、当時の世相が反映されている。バブル期はなんだかんだで夢があった。この頃の学生たちもきっと、今の学生たちと全然気分が違ったのだろう。
バブルがはじけた後の長い停滞が、今の学生たちを慎重にさせてしまったというか。この頃に学生だった大人たちに、若者の何々離れとか勝手に嘆かれて。今の若者たちは出来るだけお金のかからない方法で、出来るだけ背伸びをしないで身の丈に合った生活を楽しむことに注力する。
確かに賢い方法だとは思うが、人間一度くらいは背伸びをしてみる時期も必要なんじゃないかなとも思わなくはない。他人がやっているのを見てくだらないと思うか、自分でやってみてくだらないと思うかは全然違う。自分でいろいろやってみて、自分の一番しっくりくるポジションを見つける事も必要かなと。
主人公、横道世之介は色々な人に出会い、色々な出来事を前向きに受け入れていく。この時期は「受け入れる」ということが大事だ。そんな彼とかかわった人たちの十数年後も時々挿入され、決して皆が十分に幸せではないが、それなりに前を向いて生きている事が分かる。ふとしたきっかけで彼を思い出し、束の間、彼との思い出に浸り、当時の自分の気持ちも思い出す。
彼の充実した学生生活。正直、自分にはピンと来なかった。確かにこの年代は、わずか一年でも色々と心に残る出来事が起こる年頃だが、自分としてはどちらかというと、何かが起こるはずなのに何も起こらないことに悩んでいるような、そんな若者の方がピンとくる。
著者
登場する作品
関連する作品
映画化作品