「ヨーロッパ退屈日記」　1965

★★★★☆

感想

　伊丹十三というと「マルサの女」等の映画監督というイメージが個人的には強いのだが、外国映画にも出演したほどの俳優であったというのは意外な事実だった。俳優としては「家族ゲーム」に出ていたのを記憶しているぐらいしかない。

bookcites.hatenadiary.com

　そんな彼が外国映画出演のために滞在したヨーロッパで考えたことなどが綴られている。1960年代という海外文化の情報が多くなかった頃なので、料理だのカクテルだのファッションだの、今ではそれほど珍しく感じないもののことなどについて考察をしたりしている。

　それらについて単純に海外の文化だからと受け入れているのではなく、冷静に観察し自分なりの価値観をもって分析していて、著者の芯の強さを感じる。きっとこういう人は、いつの時代にどこに行っても、他の人は気づかない何かを発見出来る人なのだろう。

　だから、われわれは、まず、折あるごとに不満を述べあい、議論をたたかわし、役所に苦情の電話をし、新聞や雑誌にすぐれた記事を発見した場合には、手紙を書いて激励しようではありませんか。

　その効果はあまりにも小さく、前途は気の遠くなるほど遥かです。しかし、これが、誰にでもできる唯一の道造りではないでしょうか。

p14

　これは当時の日本の残念な道路事情の改善方法について述べたことだが、何にでも当てはまる。遠慮したり、察してくれるだろうと相手に期待していてはいつまでたっても改善は進まない。一度の挫折で、頑張っても無駄だと諦めてしまってもいけない。目標が達成されるまでは、常に関心を失わず地道な活動を続けることが大事だ。関係者も何もしないわけにはいかなくなる。

　一定時間の集中した反復練習が、クラッシック音楽の鑑賞法や強風下でのマッチの擦り方など、特定の技術を身につけるのに効果があると何度か強調しているのも興味深い。