★★★☆☆
あらすじ
嵐でインド洋上の島に漂着し、島人に助けられた主人公。独自の世界を築いている島の様子を見て回る。
感想
同じ著者のディストピア小説「すばらしい新世界」とほぼ同じような世界なのだが、こちらはユートピア小説となっている。
庶民が何も考えられなくなるように、フリーセックスやドラッグで享楽的に過ごさせていたのが「すばらしい新世界」だったが、こちらでも同様にフリーセックスやドラッグを与えながらも、それらを意義あるものにする教育を授けることで、人々それぞれが人間として豊かな人生を歩めるよう導いている。
「それはいつも忘れるからじゃない?つまり、いまのできごとに注意をはらうことを忘れるでしょう。それはいまここにいないことになるのよね」
p15 上
この作品は神秘主義的、オカルト的側面があると言われることもあったそうだが、いまならそれはマインドフルネスとして扱われている内容もあったりして、著者の先見性に驚かされる。島にある学校の教育方針なども面白い。
ただこのユートピアは、人々の日々たゆまぬ努力が必要とされる。常に正しい方向に人々が進んでいるかをチェックし、それがすべての人にもれなく伝わっているかを確認しなければならない。こんなしんどいことをやろうとするリーダーはなかなかいないだろう。こんな細心の注意がいる世界よりも、似ているようで全く違う「すばらしい新世界」のやり方を選択したほうが楽に世を治められる。
この本の結末のように、このユートピアが今の世を生きる人達に受け入れられて広がっていかない限り、維持するだけでも大変だ。外からこの世界を見れば、間違っていると思う人だっていっぱいいるだろう。全員にとってのユートピアというのはなかなか難しい。
この島に著者の考えるユートピアを作り上げ、そこを訪れた主人公が、いろいろな場所に連れていかれて見学しているような、いわば視察旅行をしているような形の本となっている。主人公の心の傷を癒やす場面や島の人間の妻が亡くなるシーンなど印象的な場面もあったが、著者の思想を示すためという側面が強く、物語としては面白みにかけた。文章も哲学的な内容を含んでおり、スラスラと読めるような種類のものでもなかった。
著者
オルダス・ハクスリー
登場する作品
卓上語録(テーブルトーク)
「地獄の格言」 ウィリアム・ブレイク
国家〈上〉 (岩波文庫)(共和国)
OGTー1127 ヴァーグナー 聖金曜日の音楽(「バルジファル」より) (Philharmonia miniature scores)
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