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「月と六ペンス」 1919

月と六ペンス (角川文庫)

★★★★☆

 

あらすじ

 一時期親交のあった有名な画家について語る作家の男。画家のポール・ゴーギャンの生涯をモデルにしている。

 

感想

 40代の途中まで堅実な人生を送ったのに、その後妻と子供を捨てて画家になり、さらに知人の妻を奪って捨て、それらを一切反省する事もなく、周囲には悪態をつき、南の島で無名のまま死んだ男。

 

 ざっと聞いただけでも最低な男だな、と思ってしまうような人間ではあるが、彼を嫌いになれない人間たちもいた。主人公や知人の画家だ。特に知人の画家はいつも悪態をつかれ馬鹿にされていたのに、病気で瀕死の彼を看病し、それなのに妻を奪われ、それでも彼に生活の場を提供しようとしている。

 

義憤ぶることは常に、自己満悦の要素が伴う。だから、ユーモアのセンスを持つ者にとっては、義憤ぶることはどうもばつが悪いのである。

p195

 

 彼等は常識や世間体を気にしない画家の男に、どこかで共感を覚えていたのかもしれない。作家である主人公や画家の友人は、常識や世間体に囚われていては良い仕事が出来ない。何もかも捨て、ただ自身の芸術を追求し、世間の評価すら気にしないような画家の生き様を、彼等は無視出来なかったのだろう。

 

 

 そんな画家に対して、自分や子供を置いて出ていった時は怒り、世間体を保とうと必死になっていたのに、夫が死後に画家として評価され有名になると、途端に有名人の伴侶として誇らしげな表情を見せる世俗的な妻の姿が対照的だ。

 

 「月と6ペンス」というタイトルにはどんな意味があるのだろうと思って読んでいたが、本文の中では一切タイトルの言葉には触れられていなかった。どうやら慣用句的な言葉で、丸い月と6ペンス硬貨は形は似ているが全く違うものだ、月は唯一で美しく、6ペンス硬貨はありふれた取るに足りないものだ、というような意味合いのようだ。日本で言えば「月とスッポン」のようなものだろうか。

 

 評論的な堅い文章で始まり、画家と出会い、交流を深める様子を、直接見聞きしたような物語風に描き、彼と別れた後は、その後を知る周囲の人びとに話を聞く伝聞調を使うという風に、様々なスタイルを用いる語り口も面白い。改めてゴーギャンの絵を見たくなった。

 

 ちなみに個人的に好きなゴーギャンの絵はこれ。

Eiaha Ohipa or Tahitians in a Room by Paul Gauguin - 1896: Journal (Blank / Li

 作品名は「エイアハ・オヒパ」。邦題は「働くなかれ」。良い邦題だ。

 

著者

サマセット・モーム

 

月と六ペンス (角川文庫)

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月と六ペンス - Wikipedia

 

 

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