★★★★☆
内容
組織心理学者による「与える人」が大きな成功を収めている理由やその方法の紹介。
感想
世の中の様々な関係はギブ&テイクで成り立っている。何かをしてもらったらお返しに何かをしてあげる、互いに持ちつ持たれつで助け合っている。しかしそんな関係を詳細に見てみるとそこには3つのタイプの人間がいることが分かる。人に惜しみなく与える人(ギバー)、自分の利益を優先させる人(テイカー)、そして損得のバランスを取る人(マッチャー)である。
この3つのタイプの中で最も成功しているのはきっとテイカーだろうと思ってしまうが、様々な業界を調査すると実際にはテイカーではなく、ギバーが大きな成功を収めているという。強欲なテイカーにいいように利用されていそうなギバーが何故成功を収めているのか、ギバーの利点を挙げながら紹介している。
紹介されるギバーの利点はなるほど、と思わせる興味深い内容ばかりだが、成功しているギバーであるベンチャーキャピタリストの言葉が分かりやすい。
「誰もが勝たせようとしてくれれば、勝つのは簡単だ。まわりに敵がいなければ、成功するのは簡単になる」
p37
「与える人」であるギバーは誰にとっても良い奴であり、成功すればきっと自分たちの成功も手助けしてくれるに違いないと思うので、皆がギバーの成功の後押しをしてくれる。反対にテイカーが成功しそうになると妬まれ非難されやすい。そういわれると妙に納得してしまう。
だから皆も「与える人」になろう、ということなのだが、それっぽい事は大抵の宗教や道徳や自己啓発書でも言われていて、それだけで終わってしまうとただの綺麗ごとになってしまう。でもそこで終わらず、「与える人」が注意すべきことまでちゃんと書かれているのが、この本の実践的で良い所である。
ギバーの一番の心配はテイカーの存在である。惜しみなく与える人にとって、躊躇なく奪っていくテイカーは厄介な存在だ。ギバーが単なる搾取される人になってしまう可能性がある。この不安が人々をギバーになるのを躊躇させる。著者によると、テイカーに対するときだけ、マッチャーになると良いそうだ。ただこの肝心の部分の説明がやや分かりづらいのが残念。もっと豊富な例を挙げて説明してほしかった。
そしてギバーになるにあたって気になるのは、ただの便利屋としていいように使われている、成功もしていないギバーがいることだろう。実際に最も成功しているのはギバーだが、最も成功していないのもギバーというデータがあるという。著者によると他者の利益への関心が高いギバーを分析すると、自己利益に対する関心が高い人と低い人の2種類がいるという。そして成功していないギバーは自己利益に関心が低い、自己犠牲的なギバーであり、彼らは燃え尽きてしまいやすい。利他主義であるという事は必ずしも自己犠牲的である必要はなく、自らの利益にも関心を持つことが、ギバーの成功の重要な要素になっている。
他人の利益を考え、惜しみなく与えるギバーなのだが、相手がテイカーであることを見抜きマッチャーになれる対応力や、自己犠牲的にならないように気を付ける注意力が必要となると、ある種の計算高さのようなものを感じてしまうが、とにかくただ純粋に利他的であるだけでは駄目だということなのだろう。
本書の中ではフェイスブックを見て、その人がテイカーかどうかを見抜く方法も紹介されているが、今やSNSで簡単に良い評価も悪い評価も広まってしまう時代である。そのような社会では、ますますギバーの存在感が増していく。皆に後押しされ賞賛されながら成功していくというギバーのやり方は、やってみる価値があると思える内容だった。
著者
アダム・グラント
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- 作者: アダムグラント,楠木建
- 出版社/メーカー: 三笠書房
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