★★★★☆
あらすじ
コンビニでアルバイトをすることで自分の居場所を見つけた女。芥川賞受賞作。
感想
幼い頃から他人の言動を理解できず、違和感を覚えていた主人公。だがそのことに不満を感じるわけでも、怒りを覚えるでもなく、ただ戸惑い理解できずに困っている。感情に乏しいということなのかもしれない。自己の感情が乏しければ、他者の感情も理解できない。
そんな彼女がようやく見つけた居場所が、小さな店舗に合理性を突き詰めたようなコンビニだったというのは妙に納得出来てしまう部分がある。売れないものは排除され、売れるものだけがルールに従い、規則正しく補充陳列される。
同じことで怒ると、店員の皆がうれしそうな顔をすると気が付いたのは、アルバイトを始めてすぐのことだった。店長がムカつくとか、夜勤の誰それがサボってるとか、怒りが持ち上がったときに協調すると、不思議な連帯感が生まれて、皆が私の怒りを喜んでくれる。
p34
そして、仕事だけでなく、人間関係もそつなくこなせるようになった。この調子ならどこでも上手くやれるんじゃないの、と思ってしまうのだが、コンビニというノイズの少ない場所だからこそ、気づいて対処出来るということなのかもしれない。
コンビニという本人としては健やかに生きていける場所を見つけたのに、それなりの年齢となり、なんでアルバイトなの?どうして結婚しないの?と世間は、彼らの人生観を押し付けてくる。主人公も自身は気にしていないが、対応が面倒くさいのと親や妹には安心してもらいたいというのがあり、あることをきっかけにそれまでの平穏な生活を変えてしまう。
30代半ばという主人公の年頃くらいまでが世間がうるさい時期のような気がするので、この時期を乗り越えれば誰にも干渉されず我が道を行けたのに、という気がしてしまった。主人公の行動をきっかけに店長やアルバイトたちが、ノイズの多い人間になってしまったのが印象的だ。
コンビニに生きがいを見つけるという、今の時代だからこそ書ける小説。素直にスゴイなと感心してしまった。