★★★☆☆
あらすじ
離婚申請中で別居を始めた夫婦。夫は、家事とアルツハイマーの父の世話をするために雇った家政婦と衝突し、裁判を起こされる。イラン映画。
感想
「別離」というタイトルから、男と女の切ない恋愛模様が描かれるのかと思ったら、別離により起きた事件の裁判が延々と描かれる展開だった。その中で、正義や信念、宗教、ジェンダーなど、個人や社会の様々な姿が浮かび上がってくる。
それにしてもイランの裁判は激しい。当事者同士が直接言いたいことをがんがんと言い合う。そして被害者の夫もなぜか同席していて同様に激しく主張する。現場検証でも直接本人たちが激しく見解を述べあっていて、一触即発の危うさも感じるが、その一方でこれだけ言いたいことを全部吐き出せたら、とりあえずは気持ちはスッキリしそうだ。
あまり馴染みのない国の映画を見ると、知らなかったその国の文化や風習に新鮮な驚きを覚えるものだが、この映画では敬虔なイスラム教徒の家政婦の取った行動が興味深かった。家政婦先の老人が粗相をして着替えさせる際に、わざわざ宗教関係者に電話をして問題ないかを確認している。そんな風に目の前の事態を放っておいて、いちいち確認しなくてはいけないのは、何かと支障が多そうだ。
それから女性がスカーフのようなもので頭を隠す慣習。もう本人たちはそうするのが当然だと思っているので苦にしてないようだが、傍から見ていると無意味に思えて、これもいちいち面倒くさそうだなと感じてしまった。日本も同様に他国から見たら不思議に思える風習があるのだろう。
映画は両親のどちらを選ぶか、その理由を裁判官に述べている娘を、廊下で待つ夫婦のシーンで終わる。二人にとっては運命を決める長い時間。互いに距離を取り、不安げで落ち着かない様子の二人を見ながら、別居からその日までに起きた様々な出来事を自然と反芻している自分がいた。うまい構成。きっと観客によってそれぞれ印象的だったシーンは違うのだろうなと思わせるような、色々なものが詰め込まれた映画。
ただ、盗まれたお金だったり、家政婦が何故勝手に外出したのかだったり、何となく想像はつくが、はっきりとしないまま終わる謎もあって、その辺りが若干モヤっとする。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作 アスガル・ファルハーディー
出演 レイラ・ハタミ/ペイマン・モアディ/シャハブ・ホセイニ/サレー・バヤト/サリナ・ファルハーディー