★★★★☆
あらすじ
自分が描いた絵を、社交的で口の上手い夫が自分の絵として売り込むことで成功するも、ばれないようコソコソしなければいけないことに苦悩する女。画家マーガレット・キーンの実話を基にした映画。
感想
絵を描くことは好きだが、興味を持ってくれた人にアピールするのが苦手な主人公。そういう人だからこそ、絵を描くことが好きなのかもしれないが、それを夫が上手く売り込むことで成功していく。ただし夫が自分で描いたことにして。単純に妻が書いたんですよーと言いながら売り込めばよかったのだと思うが、彼自身も画家というプライドがあったのだろうし、目立ちたがり屋なだけに注目も浴びたかったのだろう。分からなくはない。
主人公も、勝手に作者を騙ることに文句をぶつけるが、いざ名乗ろうとすると内向的な性格のせいでそれができない。代わりに目の前で夫が名乗るのを許してしまったシーンが何とも切ない。そこから彼女のゴーストペインターとしての生活が始まる。しかしこうなってくると、アートには作品以外の要素も重要という事になってしまうなと複雑な思いにもなる。
夫は上手く商売として軌道に乗せ、有名人として著名人たちと華やかな交際をし、妻は娘にすら隠れて、部屋にこもり絵を描き続ける。酷い話だが、こういう社会性のない才能のある人間を搾取して、上手いことやっている世渡り上手な人間は世の中に山ほどいるのだろうなと想像してしまう。搾取される側も、最初はそれでも自分の才能が世間に認められたと、嬉しく思うものなのかもしれない。
世間を騙して有名人となった夫。画家に憧れていたとは言っていたが、自分が描いてもいない絵で画家扱いされても満足できるのか?と思ってしまうが、彼は画家に憧れていたのではなく、有名アーティスト的生活に憧れていただけなのかもしれない。妻がいなければ自分の立場は危うくなるのに、妻を脅しつけてコントロールしようとするのはなかなか根性がある。
ただ彼の宣伝やセールスといった商売の才能が、彼女の絵を有名にして人気のあるものにしたというのは認めざるを得ない部分がある。そう考えると、やっぱり正直にやるのが正解だったのだろう。ただ彼の力が必要だったのは最初の世間に知らしめる部分だけで、一度世間に知られた後は彼女の実力でやっていけるような気もした。
主人公が遂に自分が絵の作者だと主張して、夫との裁判となるラスト。嘘がバレる時の人間の可笑しみを凝縮したような夫の言動が面白い。夫役のクリストフ・ヴァルツが生真面目な顔をしてコミカルに演じている。少し痛々しさも感じながら、ある意味でこの夫も生き様がアートしていると言えるのかもしれないなぁとぼんやりと思った。
映画は晴れてハッピーエンドを迎えるが、思っていた画家とは違う人間が描いた絵を買った人々や、真実を知った世間の反応も知りたかった。
スタッフ/キャスト
監督/製作
脚本/製作 スコット・アレクサンダー/ラリー・カラゼウスキー
出演 エイミー・アダムス/クリストフ・ヴァルツ/ダニー・ヒューストン/テレンス・スタンプ/クリステン・リッター/ジェイソン・シュワルツマン/ジョン・ポリト/ジェームズ・サイトウ
音楽 ダニー・エルフマン
登場する人物
マーガレット・キーン