★★★☆☆
内容
小さな鳥居を置くと不法投棄が無くなる、ゴミ箱の上にバスケットゴールを設置するとゴミを拾って投げ入れたくなる、といった、人々が自然と望ましい行動を取るようになる「仕掛け」について説明した本。
感想
「不法投棄をしないでください」「ゴミはゴミ箱へ」といった注意喚起の掲示をするよりも効果的なことが多い「仕掛け」。世の中にはそんな仕掛けがたくさんある。男なら男子トイレの小便器に貼られたシールの的がわかりやすいかもしれない。「トイレをきれいに使ってください」という貼り紙よりも効果がある。
こういう人々が無意識に取ってしまう行動を利用して、望ましい行動を取らせる「仕掛け」。設置した側は望ましい行動をしてもらってハッピーだし、行動した方も無意識なので命令されたような嫌な気分にはならない。人を動かすのにこんなに良い方法はないわけだが、人々は世の中にある「仕掛け」にほとんど気づかない。気づかれないように設置するわけだから当然ではあるのだが、本書ではそんな仕掛けの事例の数々がまず紹介される。
どの仕掛けも面白いのだが、その中でもなるほどと思ったのは、チラシスタンドの上部に鏡を設置すると、人々がチラシを取る確率が上がる、というもの。
人は鏡があると気になってついチラシスタンドに近づいてしまい、そのときに自身の行動を正当化するためにチラシを取ったのではないかと考えている。
p118
これは自己承認の欲求を利用したもの。鏡を見たくて近づいたが、周りには鏡を見たくて近づいたわけじゃない、チラシが欲しかったのだ、とアピールするためにチラシを取る仕組み。罠を仕掛けておびき寄せる感じが面白い。
しかしこの鏡をつい見てしまう、というのはナルシストでなくても誰でもそうなような気がする。個人的には、家庭内の鏡の所有枚数とその家の住人の美人度、男前度は比例すると思っている。体重計に毎日乗る人のほうが体型をキープしやすいのと同じ理論。鏡を見ることが多いほど自分の外見を磨きやすいはず。持って生まれた物はあるが、その手持ちのカードを最大限効果的に使えるようになるはず、と思っている。
本書の中では仕掛けを紹介した後、それらの仕掛けを仕組みの種類ごとに分類し、さらにその分類を利用して、新しい仕掛けを作る方法を紹介している。仕掛けは説明されるとなるほどとは思うのだが、いざ自分が作るとなるとなかなか難しそうだ。発想方法なども紹介されているので助けにはなりそうだ。
皆が色々と仕掛けを考えることで、「あれをしろ」だの、「これはするな」だの口うるさく言われない社会になったらいいのに、と思うのだが、悪用されて知らないうちにディストピア、ってこともあり得るかもしれないな、とちょっと恐ろしい気分にもなる。
著者 松村真宏
登場する作品