★★★★☆
あらすじ
火星での探査任務中に突然の大砂嵐が発生し、退避することになったクルー。退避中に行方不明となり、死亡したと判断され置き去りにされた男は、実は生きていた。
原題は「The Martian」。141分。
感想
火星に一人取り残された男。そこでサバイバル生活を送る姿は、無人島ものと同じと言えるかもしれないが、通常では生存できない環境にいることと、偶然近くを通りかかった船に助けられることは絶対にない、ということが大きく違う。運よく助けられることはないし、環境を維持する機器が故障しただけでも死んでしまう。とんでもなく絶望に近い。これなら最初に事故で死んでしまっていた方が良かったくらいだ。
生き残ったものの絶望的な状況にある主人公は、そんな中でも必死に生き抜くための計画を立て行動する。思いつくままに動くのではなく、現状では何日生き延びられ、これをすることでそれが何日伸びると、論理的で現実的な計算をしているのがすごい。わずか一握りの人間しかなれない宇宙飛行士になるような男なので、それも納得ではある。
食料調達のめどが立ち、地球との交信にも成功して、主人公の救出作戦が動き出し、すべてが順調だった中で事故が起きる。どこか楽観的な気分になっていた観客に、改めて主人公はほんの些細な出来事で死んでしまうような厳しい状況にいる、という現実をつきつける。どこかで死を意識しながらも、それでも諦めずに必死に生き延びる道を考える主人公に胸が熱くなる。
そして、彼をなんとか救おうとする地球側の動きにも感動してしまう。皆が必死に彼を救うために寝る暇を惜しんで考え、働く。その動きは世界的に広がり、中国までが国家機密を提供して協力する。日本人としては日本が登場しないのは残念だが、中国が登場しただけで全世界が協力しているように見えるというのは効果的かもしれない。主人公を置き去りにしてしまったクルーたちが、再登場するのもいい。
火星と地球のやり取りを全公開しているというのも、アメリカっぽい。おかしなことを喋りださないか、失敗したら体裁が悪い、とか色々考えそうなものなのに、全て世界に公開して行っている。自分たちの仕事は世間の目に耐えられる公正な仕事をしている、隠さなければいけないような恥ずべき行為など一切していないという自負なのだろう。それが当然という意識があることがうらやましい。
それから、最近はハリウッド映画で人種の偏りが批判される事があるようだが、この映画は効率的にそうならないようにしていて、上手いキャスティングだ。申し訳程度にマイノリティを端役で出すと逆に人種の偏りがあることが浮き彫りになってしまうが、重要なポジションにいる人間をマイノリティにするだけで、偏りがないように見えてしまうのは不思議だ。白人ばかりが出ていても、一度だけ登場する大統領の役がマイノリティだったら、なんか文句を言いづらい、みたいな。
こういう映画は途中で中だるみが起きがちだがそれもなく、最初から最後まで良い緊張感が保たれている。最後の救出シーンも、これまでの全てが無駄になってしまうのかとハラハラドキドキさせられる。ほぼ完璧に近い映画だなと思って見ていたら、最後の方で主人公が、危機的状況に陥っても諦めないことだ、とそれまで見ていたらもう何も言わなくても充分身に沁みてよく理解出来ていることを、わざわざセリフにして喋っているのを聞いて、ちょっと冷めてしまった。ただ、それでもかなりレベルの高い良い映画であることには違いない。
スタッフ/キャスト
監督/製作
脚本 ドリュー・ゴダード
製作 サイモン・キンバーグ/マイケル・シェイファー/マーク・ハッファム/アディタヤ・スード
出演 マット・デイモン/ジェシカ・チャステイン/クリステン・ウィグ/マイケル・ペーニャ/ショーン・ビーン/ケイト・マーラ/セバスチャン・スタン/アクセル・ヘニー/キウェテル・イジョフォー/ジェフ・ダニエルズ/マッケンジー・デイヴィス/ジョナサン・アリス/ベネディクト・ウォン/ドナルド・グローヴァー/チェン・シュー
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