★★☆☆☆
あらすじ
かつてニューヨークで活躍した元ジャズミュージシャンの男は、妻の死をきっかけに音楽を辞めて日本に戻り、友人の会社で働いていた。ある日、男は一人の若い女性と出会う。
感想
事前に酷い酷いと聞いていたので、どんだけ酷いのかと思いながら見ていたが 、言うほど酷くないなと一瞬安心させといてやっぱり酷かった。
とりあえず田村正和の演技は悪くない。悪くないというか、これが田村正和。老齢になったことで演技がひどくなったのかと思っていたが、いつもの田村正和だった。80年代終わりから90年代にかけての田村正和はずっとこんな感じだった。それを世間は良しとしてきたのだから、今更文句を言う筋合いはないだろう。
この映画で酷いのは脚本。ニューヨーク、妻の死、ジャズ、不治の病、若い女と映画っぽい要素が頻出するが、そのどれもが安っぽい使われ方で記号でしかない。これらがすべて田村正和のナルシズムを満たすためだけに使われる。
ストーリーも取って付けたものが多く、突然何の前触れもなく、飼っている犬が母を亡くし父が不在がちな娘にとって重要な意味を持っていることを告げられたり、伊東美咲演じる恋人役の同僚の男が、いきなり主人公に彼女の気持ちをもてあそぶなと突っかかったりと、あまりにも唐突で見ているこっちがびっくりしてしまう。
それから、ユンソナ演じる女が、ジャズを辞めた主人公にもう一度ニューヨークで勝負しないか?と言っているのだが、勝負するってどういう意味?陳腐なセリフだ。
おそらくこの映画は、フィクションなんだからとリアリティを全く重視していないファンタジー感強めの映画だと解釈すればいいような気がする。死期が迫った男のファンタジー。ジャズだの、ニューヨークだの、若い女だのあり得ないけど、あったら最高だよねっていうのを深く考えずにやっているだけ。伊東美咲演じる女が、主人公の娘の誕生日に子犬をプレゼントしたシーンを見て思った。現実社会では、他人の娘に相談もなく「いのち」をあげるわけがない。だからリアリティーがどうだとか文句を言うのは、空気を読めていないことになるのかもしれない。
というのを踏まえた上で、往年の田村正和を堪能したいという人には楽しめる映画になっている。
スタッフ/キャスト
監督 藤田明二
原作 LAST LOVE
出演 田村正和/伊東美咲/片岡鶴太郎/ユンソナ/細川茂樹/山崎一/高島礼子
音楽 大島ミチル