★★★☆☆
あらすじ
遺産相続で継父に逆恨みされ、精神病院に押し込まれてしまった少女。
原題は「Sucker Punch」。
感想
原題は「Sucker Punch」で不意打ちや急襲を意味するらしいが、それから考えると邦題は頭が悪そうだ。金髪美女は絶対出てきそうなB級感あふれるタイトルになっている。
「300<スリーハンドレッド>」を撮った監督らしい作り上げられた凝った映像の中で、何層にも積み重なった世界を舞台に繰り広げられる脱走劇だ。精神病院が売春宿に置き換えられ、さらにそこから戦争中のような舞台へと飛び、そこでミッションが執り行われる。
精神病院のきっとモノクロで陰鬱な世界も、売春宿を舞台に変えれば虚飾であっても華やかになる。そして、主人公がダンスで魅了している間に脱走に必要な道具を仲間が盗み出す設定なのだが、ダンスそのものを見せず、戦時中の世界でミッションを行っているシーンに置き換えるアイデアは面白かった。
そもそも人々を魅了して我を忘れさせるようなダンスとはどんなものなのだ?という問題があり、それを映像で表現するのは難しい。魅惑のダンスや人々の心を鷲掴みにする絵画等は、小説などの文章の中で登場する分には気にならないが、映像でやられるとそれは魅惑か?心を鷲掴みにするか?とがっかりさせられてしまいがちである。感じ方は人それぞれなので、皆が納得するものを映像で見せるのは簡単ではない。この映画はそういう問題をうまく回避している。
勿論それだけではなく、代わりに用意された世界もレトロでクールな戦闘機やSFぽいメカが登場し、そこで露出多めの女子たちがミッション遂行のために闘う姿は見ごたえがある。なかでもドラゴンが登場するシーンは良かった。
ただそれぞれの任務遂行シーンは面白いのだが、それらがそれぞれで完結していて、徐々に盛り上がっていくような連続性が感じられなかったのは残念だった。そして物語自体も、テンションが次第に下がっていくような、リアリティのある残酷な展開だ。世の中はおとぎ話のようにはいかないというのは分かるが、これを見せられてから「お前次第だ、頑張れ」と言われても、すぐに「よし、頑張ろう」とはなれない。ちょっと気持ちの整理をする時間が欲しい。なかなかに切ないエンディングだった。
売春宿ではダンスで敵を魅了するという事だが、これは精神病院では何に該当するのだろう。治療としての演劇の事なのかもしれない。それから音楽が結構重要な役割を果たしている。いい曲が並び、サントラも良さそうだ。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/原案/製作 ザック・スナイダー
出演 エミリー・ブラウニング/アビー・コーニッシュ/ジェナ・マローン/ヴァネッサ・ハジェンズ/ジェイミー・チャン/カーラ・グギノ/オスカー・アイザック/スコット・グレン/ジョン・ハム
音楽 タイラー・ベイツ/マリウス・デ・ヴリース