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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「あいつと私」 1961

あいつと私

★★★★☆

 

あらすじ

 裕福で健全な家庭環境で育った女子大生は、同じく裕福だが複雑な家庭環境に育った同級生の男に惹かれる。

 

感想

 この時代に自家用車で大学に通うような裕福な若者たちの日常が描かれる。だが冒頭の講義のシーンで、学生たちが活発にしっかりとした議論を展開しているのに感心してしまった。とても健全だ。彼らの意見にあれ?と思う部分もないわけではないが、ちゃんと男女が言いたいことを主張し合えている。

 

 そして普通にデモに参加し、安保反対・戦争反対などと訴えてもいる。全然チャラチャラしていない。この映画は当時の若者の最先端の文化を描いて、若者たちが憧れや羨望と共に見るタイプのものだろう。それがこれで、若者たちが彼らのようになりたいと思うのだとしたら、なんてまともな国だったのだと遠い目をしてしまった。今より進んでいるかもしれない。

 

 

 このままの路線で若者文化が進化していれば、今の日本はずいぶんと違ったものになっていたはずだ。今は若者向けの映画で政治の話なんて出てこないし、日本の未来について議論する事もない。この映画ではさらに工事現場の作業員たちを登場させて、デモに参加しているような学生たちは特権的な立場にいる事を示唆している。現実をしっかりとらえており、地に足が付いている感じがする。

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 とはいえ、やっぱり昭和だなと思わせるシーンもある。主人公らが結婚式から帰る車の中で、小沢昭一演じる同級生が友人の新婦に対してゾッとするようなことを言ったり、「童貞」「処女」を掲げた親睦会を教授を招いて行ったりしている。今とはそのワードに対する感覚が違うのだろうが、呆気に取られてしまった。

 

 それから結婚の決まった友人を主人公ら女友達が胴上げするシーンで、最後は受け止めずにそのまま地面に落下させたのは衝撃だった。危険でヒヤッとしたし、ふざけたわけでもなく急に興味を失ったかのように止めてしまったのが怖かった。その他にも、主人公がいきなり相手をビンタするシーンもあり、相変わらず昭和は激しい。

 

 これらは狙っているのかいないのかよく分からないが、良いスパイスとなっていて、純粋に物語を楽しむことができた。普通に興味津々に当時の学生の文化・風俗を眺めている感じだ。

 

 石原裕次郎演じる複雑な家庭で育った男が、自身の問題に暗くならず、明るく対処しようとする姿にも好感が持てた。主人公との恋愛も時に劇画チック、時に朗らかで面白い。そんな彼らを次第に俯瞰でとらえたラストのカメラワークが印象的だった。こんな暮らしをしている人たちが、この社会のどこかにいるはずだと予感させる。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 中平康

 

脚本 池田一朗(隆慶一郎)

 

原作 あいつと私(新潮文庫)

 

出演 石原裕次郎/芦川いづみ/小沢昭一/吉永小百合/宮口精二/轟夕起子/酒井和歌子/中原早苗/吉行和子/滝沢修/浜村純

 

音楽 黛敏郎

 

あいつと私

あいつと私

  • 石原裕次郎
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あいつと私 - Wikipedia

 

 

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