★★★★☆
あらすじ
卒業論文を書くために運河がはりめぐされた古い町にやって来た青年は、滞在する旧家の複雑な事情に気付く。タイトルの読みは「はいし」。
感想
日本のベニスとも呼ばれる福岡県の柳川にやってきた主人公。水の音が常に聞こえ少しざらついた映像のせいもあって、どこか現実離れした場所にやって来たような雰囲気が漂っている。浴衣を着て夕涼みをする人たちや、軒先でかき氷を食べて涼を取る人の姿なども、今見ると浮世離れしたレトロな風景に見えるが、このあたりは当時の人にはどう見えていたのだろうか。よく見る光景だったのか、当時の人でも懐かしい光景だったのか。
そんな町で過ごすうちに、滞在する旧家の複雑な事情に気付いていく主人公。どこか金田一耕助もののような閉鎖的な田舎の因習の禍々しさが感じられる展開だが、連続殺人事件は起きない。とはいえ人は死ぬのだが。こちらは幻想的で抒情的なストーリーだ。
一見朗らかだがふとした瞬間に憂いの表情を見せる旧家の娘役の小林聡美や、登場シーンは少ないが思い込みの強そうなその姉役を演じる根岸季衣が良い演技を見せている。特に二人が揃う葬儀のシーンは、迫真の演技合戦といった様相で緊張感があった。そして、ほとんどセリフもないのに存在感のある尾身としのり。主人公と旧家の娘に付き添って、無言で黙々と舟を漕いだり墓を清めたりする姿がちょっと面白かったのだが、最後に大きな仕事が待ち受けていた。
途中まではちょっと面白みに欠けるかなと思っていたのだが、終盤のこれまでの出来事をまとめ上げる演出が見事で、一気に好印象になった。昔の思い出を語るという形式のせいもあって、本当に現実に起きた事なのか、もしかしたら夢か幻だったのでは、と思ってしまうような幻想的な作品に仕上がっており、不思議な余韻に浸れる。アニメ映画でリメイクしたら面白いかもしれない。
スタッフ/キャスト
監督/出演(声)/編集
脚本 内藤誠/桂千穂
出演 小林聡美/山下規介/根岸季衣/峰岸徹/入江若葉/尾美としのり
撮影 阪本善尚