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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「夜の女たち」 1948

あの頃映画 松竹DVDコレクション 夜の女たち

★★★★☆

 

あらすじ

 終戦後の大阪で夫の戦死を知った女は、生活に困窮し転落していく。

 

感想

 戦後の混乱の中で、未亡人となった主人公ら女たちが転落していくさまが描かれていく。ただ、彼女たちが夜の街に出るようになった直接の原因は生活苦ではなかった、というのは興味深い。主人公は愛人に裏切られたのが原因だ。彼女の妹の場合は、戦後日本に引き揚げてきた時に色々あったことが仄めかされていて、心が痛かった。つらい体験が彼女たちを自暴自棄にさせ、夜の街に導いている。

 

 そんな彼女たちから感じられるのは、男たちに対する憤りだ。戦後の誰もが苦しい状況で、女たちは男たちの食い物にされている。散々な結果に終わった戦争を始めたのも男たちだったくせに、その割をもっとも食っているのは女たちだ。主人公の義理の妹があっけなく男に騙されてしまったのも悲し過ぎた。主人公は女たちの置かれた状況に怒り、復讐心に突き動かされている。

 

 

 投げやりで、自分なんてもうどうなってもいいと思ってしまっている彼女たちだが、身近な女が同じように転落しようとすると、必死に制止しようとするのはどこか滑稽だがリアルだ。こんな思いをするのは自分一人で十分だとの思いがあるからだろう。喫煙者がタバコを吸おうとする若者を止めようとするのと似ている。

 

 そんな殺伐とした世の中だが悪い人たちばかりではなく、彼女たちに救いの手を差し伸べようとする人たちがいることは救いだった。だが理解を示して助けようとする人たちに対して彼女たちが反発し、敵意すら見せていたのは印象的だった。今でも、自分たちに寄り添い助けようとしてくれている人たちを小馬鹿にしたり侮辱し、虐げている人間と同じ立場のフリをしようとする人達はたくさんいる。助けが必要なはずの人が、自身に助けが必要であることを理解していない。誰も幸せにならないジレンマだ。

 

 ラストで夜の世界から足を洗おうと決意した主人公は、同業者たちから暴行を受ける。組織を抜ける人間にけじめとしてリンチを加える文化はよく意味が分からないが、自分たちが裏切られたような気持ちになる怒りを静めるためなのだろうか。暴行が激しさを増す中、主人公は思いの丈をぶちまける。彼女の心の叫びを聞いているうちに、社会に虐げられた女たち同士が何を争っているのだ?と虚しさが満ちていく。少し説明的なセリフが多く感じたが、女たちが心に溜めこんでいる思いが伝わってくるような映画だった。

 

 今だと戦後の社会はこんな感じだったのかと客観的に見てしまうが、この映画が公開されたのはまさに戦後の1948年なので、現実に外の世界で現在進行形で起きていることを映画館で見た当時の観客は何を思ったのだろうと考えてしまった。今だとコロナ禍の影響で苦しい生活に陥るも、誰にも顧みられない人の物語を見るようなものだろうか。人間は状況に慣れてしまうものなので、案外とドライで、今見るほど感情的になることはなかったような気もする。

 

 

スタッフ/キャスト

監督 溝口健二

 

脚本 依田義賢

 

原作 「女性祭」 「久板栄次郎シナリオ集 女優・女性祭・破戒・愛情の軌跡」所収


出演 田中絹代/高杉早苗/角田富江/浦辺粂子/玉島愛造

 

夜の女たち - Wikipedia

 

 

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