★★★★☆
あらすじ
冤罪で逮捕された婚約者を救うため、家族の協力を仰ぎつつ奔走する妊娠した若い女。原題は「If Beale Street Could Talk」。
感想
冤罪で逮捕された男と妊娠していることに気付いた女、二人の若い男女のラブ・ストーリーが描かれる。幼馴染の二人が自然と恋愛関係となり、一緒に暮らすことを夢見るようになる。ごくありふれた恋愛物語だ。だが途中で男が無実の罪で捕まってしまったことで、普通じゃなくなってしまった。
その原因は彼らが黒人だったからだ。白人優位の社会で黒人たちがどのように虐げられてきたのか、その歴史に触れながら、主人公もその流れの中に飲み込まれてしまったことを示唆している。いかに黒人が白人に苦しめられてきたかを熱っぽく、あからさまに語るシーンも何度か出てくる。
だが映画の中で、彼らに直接露骨な態度を示す白人は、男を冤罪に追い込んだ警官ぐらいしか登場しない。彼らに部屋を貸そうとしない家主たちもいたが、彼らは明確な態度を見せるのではなく、言葉を濁すだけだった。だが、彼らのような人間がたくさんいることを知っているから、警官は露骨な態度を取れるのだろう。彼らの本音を代表してそれを体現していると言える。
その一方で、彼らに部屋を貸そうとしたり、警官から彼らを庇おうとする親切な白人もいる。個々で見ればもちろん善い人もいるが、システムとして、すべてのしわ寄せが黒人に来るような社会になってしまっているということなのだろう。
しかし、被害者や警察、そして社会を安心させるためだけに、安易に黒人が本当の犯人の身代わりにされてしまうなんて酷すぎる。それが常態化し、いつ自分がその身代わりにされるか分からないような社会では、安心して生活する事なんて出来るわけがない。静かに愛を育むことさえできない。
洒落たファッションに音楽、美しい映像で紡がれる物語だ。若い男女を助けるために奮闘する、彼女の両親の姿にも胸を打たれた。だが男の無罪を晴らそうと必死に準備していたはずの裁判があっさりと素通りされて、既定路線だったかのようにその後の彼らの様子が当然のように描かれていたのは切なかった。だがこれが現実だ。それでも彼らはたくましく生きていくしかない。状況が今より良くなることを祈りながら。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作 バリー・ジェンキンス
製作総指揮
出演 キキ・レイン/ステファン・ジェームス/コールマン・ドミンゴ/テヨナ・パリス/マイケル・ビーチ/デイヴ・フランコ/ディエゴ・ルナ/ペドロ・パスカル/エド・スクレイン/ブライアン・タイリー・ヘンリー/レジーナ・キング/フィン・ウィットロック/アーンジャニュー・エリス
音楽 ニコラス・ブリテル
撮影 ジェームズ・ラクストン