★★★★☆
あらすじ
卒業記念文集の作文を書く生徒たちを見つめながら、彼らとの思い出を振り返る夜間中学教師。
感想
何らかの理由で義務教育を受けられなかった人間が集う夜間中学が舞台だ。バックグラウンドの違う老若男女が集い、それぞれ問題を抱えながらも必死に学んでいる。そんな生徒たちを親身になって支える教師と彼らの心の交流が描かれていく。生徒たちが作文する様子を一人ずつ眺めながら、教師がその生徒との思い出を回想していく演出は上手かった。
そんな中で、教室にはいないが回想シーンで登場した田中邦衛はインパクトがあった。ほんのわずかな登場で、ジャージ姿でいつもの挙動をしているだけなのにめちゃくちゃ可笑しい。もはやいるだけで面白いという特異な存在だ。すごい。
この時は彼が教師なのか生徒なのかすらはっきり分からないのだが、後に現在は入院中の生徒だったことが分かる。そして後半は彼が送った学校生活がメインに描かれるようになる。後半の主人公を前半に印象的に登場させておく演出もまた見事だった。
しかし、彼のように勉強とは無縁だった人間には、夜間中学の存在を知ることからして困難だった、というのは皮肉だ。だが、生活保護が必要な人がその存在を知らない、というような矛盾や欺瞞は世の中にたくさんある。そして、そのなかなか結び付かない二つをつなげる役割を果たすのが、多くの場合、行政ではなく奇特な善人の存在だというのもまた皮肉ではある。
そして苦労の多かった彼の人生を思い、教室で皆が、幸せとは何か、学ぶとは何かを語り合う。ここで教師が答えを用意していないのがいい。生徒ひとりひとりに考えさせ、意見を述べさせながら、教師自身も一緒になって考えている。素直に生徒に「分からない」とか「ごめん」とか言える教師は信用できる。生徒たちがズルさや汚さを見せず、無邪気で善良すぎるのが気になるが、教師と生徒が心からの交流をしている様子に温かな気持ちになった。
良い話だし、主人公のような教師は実際にいるのだろう。だが、世間が教師全員に彼のような教師像を求めるのは間違っているだろう。待遇も環境も悪い中で、私生活を犠牲にしてまで仕事に打ち込む人は普通じゃない人だ。そんな人はそう沢山はいない。それに情熱さえあればいいわけではなく、それが間違った方向に作用すればとんでもない害悪をもたらす事だってある。
だから教師には最高を求めるよりも、最低限のレベルを保持していることを求めるくらいが妥当だろう。政治家ですらあんなレベルなのだから、教師にそれ以上を求めるのは酷だ。主人公のような教師に出会えたらラッキーだ、くらいに思っていた方がいい。
スタッフ/キャスト
監督/脚本
出演
竹下景子/田中邦衛/裕木奈江/萩原聖人/中江有里/新屋英子/翁華栄/神戸浩/すまけい/笹野高史/小倉久寛/坂上二郎/大和田伸也/大江千里
音楽 冨田勲
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