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「棒の哀しみ」 1994

棒の哀しみ

★★★★☆

 

あらすじ

 8年も刑務所で暮らすなど割に合わない仕事ばかり押し付けられてきた中年のヤクザは、ようやく運が巡ってくる。

 

感想

 組のために汚れ仕事ばかりさせられてきたヤクザの男が主人公だ。ムショ暮らしが長かったせいか、独り言が多い設定になっていて、彼の心境がよく分かるのがありがたい。

 

 この映画では本来だったら不自然に見えるシーンでも、ちゃんと前振りをしてくれるので違和感なく見ることが出来る。独り言の他には、主人公が刺された傷口を自分で縫うシーンがある。いきなりやられたらリアリティがないが、その前にジャケットの取れたボタンを手際よく自分で縫い付けるシーンがあり、裁縫は手慣れていることを知らせてくれていた。しかしこのシーンは見ているだけでも痛かった。

 

 主人公は組のために尽くすもあまり報われず、不満を抱えている。だがヤクザの世界でしか生きられない事も自覚している。やってられないと文句を言いながらも、中小企業の社長を脅して金を巻き上げたり、若い女を騙して売春婦にしてしまったりと、ヤクザらしいことはキッチリとやっているのが面白い。それくらいは何の罪悪感を持たずに出来るようになってしまっている。

 

 

 さらには自分なんてチンピラみたいな仕事がお似合いで、ヤクザの権力争いみたいなことは到底無理、なんてひとりゴチながら、それでもしたたかに足場を固めていっているのも可笑しみがある。だが、なんだかんだで上手くいってしまってはいるが、この感じだと調子に乗り過ぎて、結局は悲惨な最期を迎えるのだろうなと予想していた。ところがそれを裏切るラストが待っていたので驚いた。

 

 それまでに何度もタバコを吸うシーンがあり、タバコをくわえる度に誰かが横からライターの火を差し出していた。そんなの自分で火を着ければいいのにと思っていたのだが、これらはラストシーンへの伏線だった。猿が餌を食べる順番で誰がボスか分かるように、ヤクザも誰が誰に火を着けるかで序列が分かるようになっている。自分で火を着けないのはある種のマウンティングだったのだなと、妙に納得した。

 

 ニヤリとなる意表を突くラストには思わず感嘆させられたが、自分のことを常に客観視できる人物は強いということなのかもしれない。しかし主人公は、ぶつぶつ文句を言いながら行動し最後に「どうやらこれでぼくはまた成り上がってしまったようだ。やれやれ。」とぼやく村上春樹の小説の人物みたいだ。そう想像するとなんだか笑えてくる。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 神代辰巳

 

脚本 伊藤秀裕

 

原作  棒の哀しみ (集英社文庫)

 

出演 奥田瑛二/永島暎子/高島礼子/哀川翔/白竜/春木みさよ/平泉成/天宮良/竹中直人/桃井かおり/北方謙三/中島宏海

 

棒の哀しみ

棒の哀しみ

  • 奥田瑛二
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