★★★★☆
あらすじ
戦後間もない浅草で、新興ヤクザに組長を殺され劣勢に立っていた昔気質のヤクザ組織は、戦争から戻ってきた主人公を新しい組長に据えて巻き返しを図る。
シリーズ第1作。90分。
感想
浅草の露天商の縄張り争いを描いた物語だ。場を取り仕切るヤクザたちは、ショバ代を掠め取るだけで楽をしているのかと思ったら、意外と皆、汗水たらして一生懸命に働いていた。内部の治安を守り、外部からの敵を撃退する彼らの働きぶりは、原初の国家のかたちのようでもある。
国はヤクザとやっていることは同じ、いったい何が違うのだ、との言説をたまに耳にすることがあるが、あながち間違ってはいないなと実感した。良いヤクザ・悪いヤクザがいるように、良い国家・悪い国家があるのも似ている。最近話題のカルト宗教も同じだろう。
侵略される国家のように、主人公の組も新興やくざにその存在を脅かされている。まず組長がやられ、次に松方弘樹や梅宮辰夫が演じる下っ端がやられ、近い関係にある組の組長もやられてと、フラストレーションが溜まる展開だ。
だがそのストレスが限界を超えないように、時おり高倉健演じる主人公が男気を見せてガス抜きをする。監督が観客の感情を上手くコントロールしている。映画が始まってもなかなか主人公を登場させず、ヤキモキさせたのも演出のひとつだったのだろう。
しかし、今では不祥事を起こした政治家がいても「法律は犯していないので悪くない」と言い逃れをし、それを聞いて国民も「それもそうかな…」とおとなしくなってしまう状態なのに、主人公は違う。相手が法律を盾に正当性を主張しても、「法律は知らん。だがそれは我々の世界では許されない事だ。お前が悪い。」と一歩も引かない。この揺らぎのない強さには惚れ惚れとしてしまう。
案外、今こそこういうベタなやくざ映画のようなものが必要なのかもしれない。正義の反対は悪じゃなく、もう一つの正義だ!と小利口ぶるのもいいが、ときには悪いものは悪いと言う愚直さも必要だ。考えてみれば、最近は勧善懲悪の物語が少なくなってしまった。欧米など海外では、元々宗教がその役割を担っているからまだいい。
溜まりに溜まったフラストレーションは、終盤のクライマックスでついに解放される。その始まりを告げるのは、主題歌が流れる中、主人公が敵地に向かうシーンだ。いかにも過ぎて一瞬笑ってしまうのだが、なんだかんだで気付けば気分は盛り上がっている。
高倉健はこういう悲壮感のあるシーンがとても様になる。簡単に感情移入できて、映画を見た後に彼に成り切ってしまうのもよく分かる。正義のためには死を恐れず、敵に向かっていく姿はカッコ良かった。うまく盛り上がるように構成・演出されており、シリーズ化するのも納得の映画だった。
スタッフ/キャスト
監督 佐伯清
出演
松方弘樹/梅宮辰夫/池部良/三田佳子/江原真二郎/室田日出男/八名信夫
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