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「虚言の国 アメリカ・ファンタスティカ」 2023

虚言の国  アメリカ・ファンタスティカ

★★★☆☆

 

あらすじ

 冴えない暮らしをする元ジャーナリストの男は、ある日銀行を襲い、女性行員を人質にして逃亡する。

 

感想

 銀行強盗をした冴えない中年の主人公が、人質を連れて逃避行をする物語だ。警察に追われ、人質に抵抗されるスリリングな逃亡劇かと思いきや、そんなことはまったくなく、まるで旅行のようにのんびりとしている。しかも、銀行はそもそも通報しておらず、人質には主導権を握られるという、なんともグダグダな展開だ。

 

モントピーリアからブラウンズヴィルに至るまで、イーストポートからバーストウに至るまで、ぱっとしない現実は馬鹿げた妄想に置き換えられたのだ。度重なる反復によって再び活気づけられ、怒りによって養分を与えられ、ミソメイニア(虚言症)はその最も初期の犠牲者を、チャットルームの常連に見いだした。失望し、打ち負かされ、誰にも相手にされず、遺伝的に疑り深い連中だ。

p6

 

 現在のアメリカのような陰謀論やデマが飛び交う社会では、システムが機能不全になるということを示しているのだろう。銀行は顧客の金を盗み、警察は弱者いじめを楽しみ、犯罪者はのびのびと犯罪をしている。悪い人間ばかりがデカい顔をしている世界だ。そんな社会が、ユーモアや皮肉を交えながら描かれている。

 

 中でも印象的なのは、トラブルに巻き込まれた大富豪の言動だ。面倒ごとをなくすために、主人公が襲った銀行や働いていた衣料品チェーンを精査することなく買収しようとする。富が一極に集中する社会では、金持ちが金を稼ぐことは簡単で、なんでも金で解決できてしまうことに飽いているようにすら見える。大富豪たちがめちゃくちゃやってる大統領を支援して面白がっているのは、そのせいかもしれないなと思ったりした。

DOGE崩壊...イーロン・マスクの「無能な大ナタ」が招いた無様な最後に乾杯|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

 

 この大富豪が所有するたくさんの会社を引き継いだ義理の息子が、「そんなのいらないのに。元々やってたキャンディー作りだけをやっていたかった。」とボヤいていたのが印象的だ。そんな彼がヤケになり、所有する球団の選手となってヤンキースと対戦し、大興奮していたのは可笑しかった。あまりにもバカげているが、そんなバカげたことも起こり得るのが「虚言の国」だ。想像すると恐ろしくなり、真顔になってしまう。

 

 

 主人公は、出自から経歴、ジャーナリストとして書いた記事に至るまで、全て嘘で塗り固めて生きてきた男だ。ある意味で現代アメリカを先取りし、体現していたと言えるだろう。そう考えると、彼の旅路は、虚言にまみれたアメリカがどうやって立ち直るのか、その道しるべを示していると言えるのかもしれない。

 

 「馬鹿げた妄想」に置き換えていた「ぱっとしない現実」も、冷静に見てみればそんなに悪いものではないことに気づく。それに嘘を一切やめて品行方正に生きる必要もなく、そこそこに楽しめばいい。

 

 それから、主人公に連れまわされていた人質の女性は信仰深かったが、やはり宗教も必要なのかもしれない。現在の何でもありの無茶苦茶なアメリカで、それでも正しいことをしようと抵抗する人がいるのは、裁きを下す神に見られているという意識があるからだろう。

 

 とりあえずは、現実を見ないで虚言を貪り食い、動けなくなってしまった主人公の母親のようにならないように気をつけなければならない。利用されるだけで相手にすらされていない。もうすでにそうなりかけている人は多そうだが、軌道修正する余力があるうちに踏みとどまれるようにしたいところだ。

 

 基本的に、笑わせようとしているのか?と一瞬考えてしまうような、トボけたストーリーなのだが、途中でボケ倒している部分があり、ユーモアとシリアスのバランスが時に大きく偏るムラのある展開が面白かった。これまでの嘘を白状するようになった主人公が、それでも頑なに守ろうとした優しい嘘にもグッと来る。嘘は必ずしも悪ではない。

 

著者

ティム・オブライエン

 

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登場する作品

イーリアス 上

ちびくろサンボ

シンデレラ

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「我が町(ソーントン・ワイルダー〈1〉わが町 (ハヤカワ演劇文庫))」

ファンタジア スペシャル・エディション [DVD]

「我が闘争(わが闘争(上) (角川文庫))」

俺たちに明日はない (字幕版)

(字幕版)拳銃の町

上流社会 (字幕版)

*「ダーティー・ダンシング」

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「ブリガドゥーン(ブリガドーン(字幕版))」

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(字幕版)我等の生涯の最良の年

風車の秘密

 

 

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