★★★★☆
あらすじ
深夜の弁当工場で働く主婦は、夫を殺してしまった同僚のために、仲間と共に隠蔽工作を図る。
感想
深夜の弁当工場でパートで働く主婦が主人公だ。夫を殺してしまった同僚を助けるため、仲間と共に遺体をバラバラにして証拠隠滅を図る。なかなかショッキングな展開だ。
しがない主婦に過ぎない主人公が、他人のためにリスキーで怖ろしいことをやってしまうことに驚くが、主人公のキャラクターとして不思議と納得できてしまうところがある。その直前に、別の同僚からの借金の相談を即答で引き受けた場面も効果的だった。
雅子はヨシエのいくらでも滲み出てくる情緒にうんざりしている。
上巻 p141
主人公は仕事仲間に協力を求め、一緒に作業を行った。それまでは互いに思うところがあっても何も言わず、ただつらい勤務時間を無難に過ごすための仲間として接してきたのに、共犯者となった途端、互いに歯に衣着せぬ物言いに変わったのは面白かった。
相手のミスで自分までが破滅する恐れがある状況なので、気になることはズケズケと言わざるを得なくなったのだろう。互いに本音をぶつけ合って、次第に距離を取り合うようになったのはリアルだ。
やがて事件は露呈する。その後は捜査する警察の追及をいかにかわすかに終始するのかと思っていたら、さらなる展開へと発展するので仰天した。どんどんとヤバい方向へと突き進んでいく。ここからの予想を超える信じられないような展開に、ページをめくる手が止まらくなった。
主人公のキャラクターと共に、共犯者となった同僚の女たちのキャラも興味深い。家族がいながら深夜の工場で働くということは、それなりの事情があるということだ。三者三様の人生模様がドラマに厚みを与えている。
この小説の発表当時は社会の下層を描いたと評価されたようだが、今ではここで描かれた世界はより身近なものになった。きっと今なら「下層と言うな!」と怒ったり、「この状況に満足しているから問題ない」とアピールする当事者たちで溢れるのだろう。
自分たちを虐げる権力者の力に熱狂したり、弱い者や叩きやすい者を叩いて気持ち良くなっていないで、ちゃんと自分が幸せになるにはどうしたらいいのかを真剣に考えないと、この先状況はますますひどくなるばかりだ。
やせ我慢にも限界がある。この小説のような「OUT」しかなくなる前に、まともな出口に向かって地道に歩んでいくしかないだろう。
著者
桐野夏生
登場する作品
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