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「チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学」 2019

チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学

★★★★☆

 

内容

 香港・チョンキンマンションで怪しい商売をして暮らす東アフリカのタンザニア人たち。彼らの生活に密着し、そこから見えてきた独特の考え方や独自のシステムを紹介する。

 

感想

 天然石や中古車等の輸出入業から売春などの裏稼業まで、様々な商売をしながら香港で暮らすタンザニア人たちの生活に著者が密着し、その実態を明らかにする。誰も信用しないと言いながら誰とでもつき合う不思議なコミュニティの内幕が紹介されており、大変興味深い。

 

 彼らの生活ぶりを読んでいて特に印象的なのはその自由さだ。商談に平気で遅刻したりすっぽかしたりするし、夜はパーティで皆とバカ騒ぎ、もしくは現地の恋人と過ごしたり。そしてそれらの様子をSNSで発信したりもする。お金がなければおごってもらうし、あればおごる。時には年上の異性に養ってもらったりすることもある。実はその裏にはしたたかな計算があったりするようだが、それでも皆肩ひじ張らずに生きていて、ストレスは少なそうだ。

 

「(前略)日本人は真面目で朝から晩までよく働く。香港人も働き者だが、彼らは儲けが少ないことに怒り、日本人は真面目に働かないことに怒る。仕事の時間に少しでも遅れてきたり、怠けたりズルをしたりすると、日本人の信頼を失うってさ。アジア人のなかでいちばんほがらかだけれども、心のなかでは怒っていて、ある日突然、我慢の限界が来てパニックを起こす。彼らは働いて真面目であることが金儲けよりも人生の楽しみよりも大事であるかのように語る。(中略)だから俺はサヤカに俺たちがどうやって暮らしているのかを教えたんだ。俺たちは真面目に働くために香港に来たのではなく、新しい人生を探しに来たんだって」

p236 

 

 そんな彼らの中のひとりによる日本人評が色々と考えさせられる。日本人の長所として勤勉さや忍耐強さがよく挙げられるが、今はそれがすべて悪い方に出ているのかもしれない。例えば、最悪の状況でもじっと耐え、限界まで黙々と働く人が多いからブラック企業は存在できている。社員誰もが勤勉でも忍耐強くもなく、すぐに文句を言ったり辞めたりするなら、ブラック企業は自ずと待遇改善をしなければならなくなりブラック企業ではなくなるはずだ。そろそろ日本人は、文句を言わずに黙って従うことを良しとするのではなく、自身にとって居心地の良い環境を作り上げることにもっと力を入れるべきなのだろう。もっと自分自身を大事にしても良いはずだ。

 

 

 時おり学術的となって少し難しくなってしまうが、基本的には読みやすいノンフィクション。読んでいると、彼らと日本人の違いは狩猟民族と農耕民族の違いから来ているのだろうかとか、彼らは彼らでタンザニア人のなかでも特殊なのかもしれないなとか、色んな思考が頭の中をめぐり刺激的だ。世界は広く、色んな人がいる。

 

著者

小川さやか

 

 

 

登場する作品

アジアで出会ったアフリカ人―タンザニア人交易人の移動とコミュニティ

悪循環と好循環: 互酬性の形/相手も同じことをするという条件で

シェア[ペーパーバック版] 〈共有〉からビジネスを生みだす新戦略

TRUST 世界最先端の企業はいかに〈信頼〉を攻略したか

シェアリング・エコノミー--Uber、Airbnbが変えた世界 (日本経済新聞出版)

「招き猫」 「タクラマカン (ハヤカワ文庫SF)」所収

 

 

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