★★★★☆
あらすじ
元刑事で犯罪心理学の大学教授とその妻は新居に引っ越すが、不審な隣人に戸惑う。
感想
人の心を操り、他人の家を乗っ取っていく犯人が描かれる。香川照之の迫真の演技の犯人役も怖いが、心をゾワゾワさせる演出もかなり効果的だ。主人公と被害者の女性が話している後ろでたくさんの人間が不穏な動きをしていたり、急に暗くなったりと、随所でどこか不安になる雰囲気を醸し出すような演出が行われている。少しわざとらしく感じるくらいの音楽も効いている。
そして、犯人の家の敷地内の理由の分からない工事の囲いとか、近所の公園の草がぼうぼうで全然手入れされていない様子とか、事件現場には特有の雰囲気があるというが、まさにそんな雰囲気のイヤな感じで満ちている。どこか荒んだ光景だ。
犯人の人を操る手口は、ほとんど香川照之の演技で納得させられるのだが、それでもクスリで言うことを聞かせるのはちょっと簡単すぎる気がした。クスリ漬けなら分かるが、一本打ったぐらいでもう思い通りになるというのはさすがに難しいのではないだろうか。
映画の構図としては、犯罪心理学者で元刑事の主人公と隣人の異常者の対決のようになっているのだが、実際はみんながどこかおかしい、というのが面白いところだろう。主人公も犯罪者や被害者の話を聞きながら面と向かって「面白い」とか言っちゃうような人間だし、後輩の刑事は主人公が避けているのを知っていてズカズカと会いにやってくる。
個人的にこの映画の中で一番恐怖を感じたのは、竹内結子演じる主人公の奥さんが、作り過ぎたと隣人にスープを持っていくシーンだ。初対面で嫌な感じだった相手に、なんという無謀な再チャレンジ。よくそんな事が出来るな、と震えた。彼女なりに引越しをしたばかりで張り切っていたり、主婦の孤独みたいなものもあったからだと解釈できるが、はたから見ればかなりヤバい。こんな風に、よく見れば誰もが皆、心に闇を抱えていると言えるのかもしれない。
2時間を超える映画だが、予測できない緊張感のある展開でダレることなく楽しめた。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 黒沢清
脚本 池田千尋
出演 西島秀俊/竹内結子/川口春奈/東出昌大/笹野高史