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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「白痴」 1999

白痴

★★☆☆☆

 

あらすじ

 焼け野原が広がる戦時下にテレビ局に勤める男は、ある日帰宅すると押し入れの中に隣人の白痴の女が潜んでいることに気付く。146分。

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感想

 太平洋戦争下の日本を舞台にしているのかと思ったら、主人公がテレビ局に勤めていたり、妙に中国語が幅を利かせていたりして、どうやら架空の世界を舞台にしていることが分かってくる。一種のSFものだと言えるだろう。主人公の近所は家が所狭しと建ち並んだままなのにも関わらず、テレビ局に向かう通勤路は辺り一面が焼け野原となっていて、どうなってるのだ?と思わなくもないが、興味をそそる設定だ。

 

 そしてそんな世界観を表現する映像がとても良く出来ている。崩れそうに傾いたボロい家が建ち並ぶ路地や、焼け野原で焼け出された人々が蠢く様子など、CGを使っているのだと思うが、全くチープさのないクオリティーの映像で感心してしまう。今から20年以上前にこのレベルはすごい。8ミリフイルム風やニュース映画風、昔の白黒テレビ風など様々なスタイルの映像を駆使して変化を与えるなど、工夫もしている。

 

 

 独特の世界観の中で繰り広げられるのは、どうせ戦争で死ぬのだと虚無の中で生きる男と白痴の女の物語だ。しかしプロットとしてはそのはずなのだが、テレビ局での主人公の様子にも多くを割かれていて、あまり二人の物語という感じはしない。そもそも二人一緒のシーンが少ないし、二人のやり取りもしっかりと描かれない。映像の素晴らしさに比べてストーリーのショボさが際立つことになってしまっている。

 

 それでも監督が撮りたいものを撮っていれば、そこから何か伝わってくるものがあるのだが、それも見えない。なんとなくすごいと思われそうな映像にしようとしているだけで、形式的に撮影しているだけなのだろうなと思ってしまうシーンがいくつもあった。こちらが先だが、まるで蜷川実花みたいだ。

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 もっと監督が自分の性癖をさらけ出し、撮りたいものを撮りたいように撮って、ヤバい雰囲気を醸し出す映画にして欲しかった。そんな気配が全くないわけでもなかったが、かなり控えめで、せっかくの映像に訴えかけるものがない。棒演技ならぬ棒映像になっていた。

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 長時間の映画で、何をやりたいのだかよく分からぬままに見続けるのはかなりしんどかったが、ラスト近くで始まる大空襲のシーンになった途端、突然躍動感が出てきて面白くなってきた。あちこちに爆弾が落ちて炎に包まれる街の中を、主人公と女が逃げ惑う。若干音楽がクドかったが、その後に続くファンシーな特撮映像も奇妙な魅力があった。今までになかった熱が伝わってきて、これがやりたかったのだなとよく分かる見ごたえのある一連のシーンだった。

 

 終わり良ければすべて良しで、結果的にそんなに悪い印象にはならなかったが、2時間辛抱した後にようやく見どころがやって来る展開はやっぱりつらい。無駄に長いので、二人の話だけを残してあとは適当に切り刻み、100分程度にした再編集版を作ればいいような気がする。なかなかいい映画になりそうだ。

 

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 手塚眞

 

原作 白痴 (新潮文庫)


出演

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甲田益也子/橋本麗香/草刈正雄/藤村俊二/江波杏子/松岡俊介/小野みゆき/川村かおり/岡田眞澄/筒井康隆/内藤誠/岡田眞澄/筒井康隆/内藤誠/泉谷しげる/桜井センリ/伊武雅刀/永瀬正敏/林海象/YOU/サンプラザ中野/清田益章/島田雅彦/サエキけんぞう/S-KEN/諏訪太郎/大森南朋

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音楽 橋本一子

 

白痴

白痴

  • 浅野忠信
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白痴 (1999年の映画) - Wikipedia

 

 

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