★★★★☆
あらすじ
新興宗教にハマった両親のもとで育った女子中学生は、学校の数学教師に思いを寄せるようになる。110分。
感想
新興宗教にハマった両親のもとで育った女子中学生が主人公だ。物心がついた時からそんな環境だったので、彼女も疑うことなく両親同様の信仰を持っている。いわゆる宗教2世だ。だが両親が新興宗教にのめり込んだ原因が、彼女の出生時の疾患だったのは切ないものがある。宗教は上手く客のニーズを掴むとも、弱みにつけこむとも言える。
外から見れば彼女たちは騙されている可哀想な家族なのだが、内情を見ると両親は仲が良く、主人公も素直な良い子で幸せそうである。宗教のメリットは享受できていると言える。
だがカルト宗教の問題はギブアンドテイクのバランスの悪さだろう。与えるよりも奪う方がはるかに多い。そのあくどさゆえに社会問題となる。何も説明はされないが、主人公らの住む場所が途中から立派なマイホームから質素な平屋の借家に変わっているのが地味に怖い。また姉も家出して行方不明となっている。
そんな一家を救おうと奮闘する母親の兄のようなありがたい存在もいるが、周囲の人たちの多くは生ぬるく彼らを見守っている。あまり深く関わろうとせずに距離を取っていると言った方が正確かもしれない。主人公の友人たちも時々疑問をぶつけたりはするが、深くはツッコまない。
とはいえ、何かと疑問を呈されたりいじられたりすれば、過剰な防御反応を示したり、逆に攻撃的になったりしそうなものなのに、主人公が穏やかに対応していることに感心してしまう。強がるでもなく普通に「騙されてないよ」と答えるのが印象的だった。主演の芦田愛菜がナチュラルな演技で好演している。
だがそんな周囲の生ぬるい空気を吹き飛ばす、憧れの教師のキツい一言が、主人公に衝撃を与える。皆が遠回しに遠慮気味に口にしていたことを、オブラートに包むことなくぶつけてきた。これが世間の率直な感想を表していると言えるだろう。しかし、教師のあまりにド直球な言葉に思わず笑ってしまった。この教師は教師で別の問題がある。
終盤の新興宗教の合宿シーンは、彼女が両親に愛情を感じながらも、もはや彼らと同じようには生きていけないことを示唆している。それ以前から彼女の中に疑念はあり、禁止されているコーヒーを飲んだりもしていた。それを感じ取っていたからなのか、ラストの両親の言動は不穏に満ちていて、この後、何かよくないことが起きるのではと不安にさせるエンディングだった。
新興宗教に騙された一家なんて特殊な存在に思えるが、国際的な地位をどんどんと失い、腐敗にまみれ、収入の半分を税金で奪われながらも「騙されてないよ」と真顔で言って、現状維持を選ぶ人がたくさんいる国にいるわけだから他人事ではない。当の本人はどれだけ言われても気づかない。そんな話はよくある。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 大森立嗣
原作 星の子 (朝日文庫)
出演 芦田愛菜/大友康平/高良健吾/黒木華/蒔田彩珠/新音/大谷麻衣/永瀬正敏/原田知世/池内万作/宇野祥平