★★★★☆
あらすじ
父とその愛人と暮らす男子高生は、暴力的な性癖を持つ父親の血を受け継いでいるのではないかと恐れている。
感想
田舎町で暮らす男子高生が主人公だ。職業不詳で欲望に忠実な父親と、彼に殴られるままの若い愛人と共に暮らしている。近くに住む母親は、たまに立ち寄る息子にそんな父親に対する恨み言を並べる。彼らのまわりには、閉塞感溢れる中小都市に特有のよどんだ空気が漂っている。
主人公と父親や愛人、そして母親の関係が描かれていく。彼らの間で交わされる会話のほとんどが、性的な事柄に関する事なのはよく考えるとすごい。母親などはずっと夫との行為のことについて息子に語っている。客観的に見るとかなり気味の悪いことだが、とらえようによってはオープンな性教育をする良い家庭と言えなくもない。残念ながら悪い例ばかり教えられるのがアレだが。
何もない田舎ではそれぐらいしかやることがなく、他にトピックもないということもある。だがそれ以前に、性的なものは人間の根源的な生に関わる事柄だ。父親の暴力などは典型的だが、主人公を含めてそこには男たちの鬱屈した想いが込められていることが分かる。そして女たちは黙ってそれを受け入れている。
そんな田舎の閉じられた空間で永遠のように繰り返されている世界を、彼らの生活の傍らで流れる川が象徴している。川は各家庭から流れてくる汚れ物や投げ入れられた廃棄物を受け入れ、そこで魚やうなぎを育て、人々に食物を提供する。川は男たちを受け入れ、子どもを産み続ける女たちの姿を暗示している。
やがて主人公の父親のカルマが限度を超え、事件が起きる。そして、田中裕子演じる母親の諦念の奥に潜んでいた固い意志が露わになり、父親は川に返っていった。その後の母親の、天皇に対する強い怒りが垣間見えるシーンには戸惑ってしまったが、女はただ男の為すがままに生きているわけではない。男に、そして彼らが形作る社会に対する憤りをずっと胸に秘めている。
男たちの鬱憤や女たちの強さが表現された映画だ。そして同じことが繰り返されているだけに見える世界にも、少しずつ変化が起きていることも示している。昭和も終わるし、川の水質も変わるし、男女の関係も違ってくる。父親の血を受け継ぐ主人公も、彼と同じような人生を歩むわけではない。同じように見えても、世界は同じままではいられないのだ。
スタッフ/キャスト
監督/音楽 青山真治
脚本 荒井晴彦
原作 共喰い (集英社文庫)
出演 菅田将暉/木下美咲/篠原友希子/光石研/田中裕子/岸部一徳