★★★★☆
あらすじ
行方不明になった生徒を探しながら、彼らが入学してからの三年間を振り返る高等養護学校の教師。
感想
行方をくらました生徒二人を探しながら、主人公の養護学校教師が彼らと過ごした三年間を振り返る。現在の二人の生徒はしっかりしていて仲良さげだが、入学当時は片方は一言もしゃべらず、もう片方は手が付けられないほど粗暴で言うことを聞かなかった。この間に何があったのかと興味を沸かせる上手い構成だ。
養護学校は、生徒の年齢は同じでも障害の度合いがそれぞれ違い、学習能力の違いもあるのでめちゃくちゃ大変そうだ。普通学校の多様性とは比べ物にならないくらい多様性で溢れている。当然ままならないことは多く、永瀬正敏演じる新人教師が苛立ちを覚えてしまう気持ちはよく分かる。だがそれを諭す主人公やいしだあゆみ演じる先輩教師の言葉が心に響いた。
中でも、教師が生徒を従わせ、思い通りに操れるようにすることが教育ではない、という主人公の言葉には考えさせられるものがあった。だが養護学校に限らず、日本の学校はこれをやってしまっている。だから自分で考えようとせず、教師的な態度を取る者、偉そうな態度を取る者にコロッと騙されてしまう。そうならないためには主人公のような教師が重要になってくるが、教師自体がすでに誰かに従属する体質になってしまっているからもはや手遅れ感はある。
生徒二人の無断外出の冒険は可愛らしいもので、まさに思春期の少年の青春の一コマといった感じだった。それに意外とちゃんと計画的で、教師たちが怒るどころか感心してしまったのもよく分かる。その冒険の終わりに学校を去ろうとした生徒と別れられず、もう一人の生徒がいつまでも追いかけてしまう泣けるシーンには演出のあざとさを感じてしまったが、最終的にそれを笑いに変えてしまう手腕はさすがだった。
ヒューマニズム溢れる映画で暑苦しさを感じないでもないが、本当は今こそこういう映画が必要とされているような気がする。これまでの社会は世の中の三割くらいの理解があれば進歩していたが、今は九割くらいが理解しないと進歩しないような印象がある。各方面で強烈なバックラッシュが起きているのもそのせいで、世の中を引っ張て来た三割に対する反発が表れているのだろう。理解できない、したくないから嘲笑や冷笑で返す。
封建社会後に進めてきた社会の歩みを、今度は九割の人間の理解と共にやり直さなければならない状態で、それにはこんな物語が必要となってくるはずだ。おそらくはもっと分かりやすく描く必要はありそうだが。
安室奈美恵と浜崎あゆみが出演しているなかなかレアな映画でもある。
スタッフ/キャスト
監督/脚本
脚本 朝間義隆
出演
永瀬正敏/いしだあゆみ/神戸浩/梅垣義明/笹野高史/小籔千豊/浜崎あゆみ/中村富十郎/泉ピン子/原日出子/安室奈美恵 with SUPER MONKEY'S/豊田順子
音楽 冨田勲
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