★★★☆☆
あらすじ
アルコールに溺れ、スリの仕事がまともに出来なくなってしまった男の前に、弟子入りを志願する若い男が現れる。
感想
中年のアル中でスリの男とその周囲の人物の物語。当然、話の中心はアル中とスリの話の2本立てで展開されるのだが、どちらも中途半端になってしまっている印象がある。アル中の禁断症状に苦しむ姿も手際のよいスリの手口も、もっとしっかり見たかった。それから、人のまばらな遊覧船でひとり佇む女性に異常に接近してスリを行なうのはさすがに不自然だったし、電車の中でしか仕事をしないのが主人公の誇りだったのに、その弟子が他の様々な場所で仕事をしていたことについてはどう思っていたのかも知りたかった。
原田芳雄演じる主人公は、アル中で手が震え、まともに仕事が出来ないことに忸怩たる思いを抱えながらも、酒を止めることが出来ない。同居する娘同然に育てた若い女も、いざとなると気の毒になって酒を飲ませてしまう。主人公は警察に既にマークされているのだから、わざと捕まって服役すれば自動的に断酒できるのに、と思ってしまうが、そうは言っても一定の間完全に自由を奪われてしまうのは誰だって嫌だから当然か。それに警察に捕まるというのはスリとしての沽券にかかわることなのかもしれない。
それから、娘同然の若い女が保健所の犬猫の殺処分を担当する仕事についているのは、社会に見捨てられた生き物を放っておけない優しさを示しているのだろう。その優しさは、同じように社会の片隅でひっそりと生き、消えていきそうになっている主人公に対しても向けられている。主人公が再起をはかれたのは、彼女のような存在があったからだろう。彼女だけでなく、弟子入り志願した男、彼を叱咤する刑事、断酒会の女など、彼を気遣う人間が周囲にたくさんいた。孤独な人間だとたった一人で立ち直るのは難しいし、そもそもそんな状況では立ち直ろうとすら思えないかもしれない。
主人公の周囲の人間の中では、断酒会の女を演じる風吹ジュンが良かった。この時の彼女は40代後半と決して若くはないのだが、美しく可愛らしく、時には荒れたりブチ切れたりと、色んな女の表情を見せていて魅力的だった。
主人公は一度は立ち直るも、弟子をめぐるいざこざから商売道具の右手を潰されてしまう。今度こそ再起不能かと思われたのに、それでも不屈の闘志で再び立ち上がる主人公の姿には胸が熱くなった。社会の片隅で生きている彼らにだって、プライドはある。
それからまわりのサポートも大事だが、何よりも大事なのはまず本人に矜持があるかどうかなのだなと思い知らされた。それらが無くなってしまった時、すべてが一瞬で終わる。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 黒木和雄
脚本 真辺克彦/堤泰之
出演
風吹ジュン/真野きりな/柏原収史/石橋蓮司/伊佐山ひろ子/平田満/香川照之/川島郭志/岸本祐二/すまけい/hal/真理明美/北見マキ/林千枝/松本修/青木和代/真実一路/本多晋/藤崎卓也/内藤忠司