★★★☆☆
あらすじ
パソコンのモニターに不気味な映像が勝手に映し出される現象にたびたび遭遇するようになり、恐怖を覚える男子学生。
感想
映像は陰鬱で不明瞭、背後では不協和音が聴こえる中、淡々としたペースで不可思議な出来事が次々と起きていく。見ているだけでなんとなく不安になってくる映画だ。ただ怖いかと言われたら、特に怖くはなかった。ホラー映画としてこの得体の知れなさが怖い、ということなのだろうが、すでにやりつくされている今となっては普通だ。公開当時にリアルタイムで見たのなら、また感想は違ったかもしれない。
意外とがっつりと丁寧な説明をしてくれるシーンがあったりもするのだが、基本的にはセリフが少なく、静かに進行する物語だ。何が起きているのかもはっきりとは分からず難解に感じてしまうが、それが逆に魅力だとも言える。どのシーンも意味深で、登場人物の言動や映り込んだものに何か意図があるのではないかと深読みしたくなる。
そんな中で気になったのは、女性陣がノースリーブなどの露出が多い衣装ばかりを着ていたことだ。怨霊の出てくるホラー映画にはそぐわないような気がしたが、人間の生々しさを見せることで生者と死者(怨霊)を対照的に見せようとしていたのだろうか。
もしかしたら「生」を強調することで、逆に怨霊を刺激して呼び込んでいるという設定なのかもしれない。最後まで生き残った女性は、霊を刺激しないためなのか、いつの間にか肌を隠すような長袖の衣装を着るようになっていた。
それから、引きこもりのように孤独に暮らす人たちは幽霊と何が違うのか?という話は面白かった。確かに滅多に人前に姿を現すことのない彼らは、幽霊と同じようなものなのかもしれない。引きこもりに限らず、どんな人だって孤独に過ごす時間だけを見れば、幽霊と大差ない存在だ。一人掛けのソファや椅子が色んなシーンで登場するのは、それを暗示しているのだろう。
最後は大掛かりなSF映画みたいな展開になり、ちょっと面白かった。何度見ても新たな発見や考察が出来そうな映画だが、上映時間以上に体感時間が長く感じてしまうのが玉に瑕だ。ラストは冒頭のシーンにつながるのだが、そういえばそんなシーンが最初にあったなと、はるか昔のことのように思えてしまった。
鑑賞終了後、確認のために再度いくつかのシーンを見直したのだが、倍速で見たらテンポよく見られていい感じだった。早送りで映画を見る人の気持ちがちょっとだけ分かってしまったような気がする。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 黒沢清
出演 加藤晴彦/麻生久美子/有坂来瞳/松尾政寿/菅田俊/水橋研二/塩野谷正幸/一条かおり/高野八誠/高島郷/結城淳/森下能幸/丹治匠/哀川翔/長谷川憲司/北村明子/小野輝男/基常結子/狸穴善五郎/安田理央/風吹ジュン武田真治
【本編】『回路』<2週間限定公開> - YouTube(24/6/7-6/21 期間限定)
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