★★★☆☆
あらすじ
誰にでも親切でやさしい男は、飲み会で知りあった無名の女Youtuberの手伝いをするようになる。
感想
誰にでも親切でやさしい男が主人公だ。知り合った無名の女YouTuberを手伝うようになり、良好な関係が生まれる。だが、人気YouTuberと知り合い、調子が出て来た女に冷たくあしらわれるようになった主人公は、その他の問題も重なって、ついにキレてしまう。
親切にしていたのに酷い仕打ちをされて腹が立つのは理解できるが、皆に呆れて神だと言われるくらい「いい人」だった主人公が、普通の人みたいにそんなことでキレてしまうことに戸惑ってしまった。その後も恩着せがましいことをクドクドと言い、じゃあどうして欲しいのだと相手に訊ねられると、どうしていいのか分からないような曖昧な要求しかしない。
主人公のやっていることが「いい人」のやることだとは到底思えず、その違和感がずっと消えなかった。本当にいい人だったら追い込まれても豹変などせず、ただ静かに去るだけだろう。つまり主人公は「いい人」を演じていただけなのかとその事実に怖くなった。だとしたら見返りを求めたとしても不思議ではないが、だったら最初からなぜ求めなかったのだ?となるので、主人公のキャラがやっぱりよく分からない。ブレブレだ。
主人公を怒らせたYouTuberの女も、有力者と知り合って主人公が疎ましくなったのは分かるが、だからといって豹変することはないだろう。普通に申し訳なさそうな顔をしながら心苦しそうに切り出せば良かっただけのことだ。金回りが良くなったのなら金も払えばよかった。彼女の突然のブチギレ具合もよく分からなかった。
その後は女を誹謗中傷するYouTuberとなった主人公と、女との泥沼の戦いが繰り広げられる。女が属するようになった人気YouTuberグループの虚無ぶりも描かれて、この界隈の狂気が伝わってくる。結局、どれだけ世間の注目を集められるのかが勝負の世界なので、極端な方向に向かって行くのだろう。案外、ギャグ漫画家の世界と似ているのかもしれない。一方で、だからといって安易に馬鹿にするものではないとのメッセージも発していて、バランスを取っている。
彼らが、言い争いをしながらも、刺されても、スマホでの撮影をやめようとしないところが印象的で、異常さを良く表していた。スマホも武器の一種みたいなものかもしれない。撮影することで自分を客観視できる側面はあるだろう。しかし、この映画を100年後の人々は理解できるのだろうか。もし理解出来るのだったらなんか嫌だ。人類はもっと進歩して、失笑するくらいであってほしい。
喧嘩の結末は予定調和的で、ラストシーンは狙い過ぎの感があった。可笑しみはあるが笑う気分にはなれない、狂っていくYouTuberの物語だ。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 𠮷田恵輔
出演 ムロツヨシ/岸井ゆきの/若葉竜也/吉村界人/淡梨/栁俊太郎/田村健太郎