★★★★☆
あらすじ
舞台は戦国時代。家族のために瀬戸物を売って大金を手に入れようとする男と、武士となって出世しようと夢見る義弟。ヴェネツィア国際映画祭 銀獅子賞。
感想
町へ出れば作った瀬戸物が高く売れることを知り、大金を手に入れようと忙しなく働き出した主人公と、つつましくも家族団らんのある幸せな生活を望んだ妻。ただ妻もなんだかんだで夫につられて忙しく働いてしまっており、意外とノリノリだなと思ったが、時代状況的に考えれば自分の想いを殺して夫に逆らわず、従順だっただけなのだろう。
主人公夫婦とその妹夫婦は、やがて戦乱の世の中に翻弄されていく。この時代の農民たちの様子が丁寧に描かれており、彼らのハードモードぶりがよく分かる。町に出ようとすれば道中で盗賊や落ち武者に襲われるし、村にいるだけでもいきなりやって来た武士に食料を奪われ、人足として拉致されてしまう。さらに女は常に襲われる危険に晒されている。こんな世の中では心が落ち着く暇もないだろう。戦のない世の中を願う気持ちがよく分かる。
妻を残して焼き物を売るために命がけで町にたどり着いた主人公は、そこで謎めいた若い女性と出会う。ここから何やら怪異めいた話となっていく。身分の高い女性が農民と関わることなどあるのかと思ってしまうが、混乱した世の中だし、主人公も農民というよりも焼き物の職人として敬意を示されているので分からなくもないか。
この謎めいた女性を演じる京マチ子が良い。どこか浮世離れした雰囲気を持っており、普通のことをしても何か裏がありそうな、まさに「謎めいた女性」という表現がふさわしい。それまで可愛らしい仕草を見せていた彼女が、主人公が出ていくと言った瞬間に恐ろしい顔に豹変したシーンもインパクトがあった。
名作として世界的に評価されている映画だという前知識があったせいで、見る前にかなりハードルを上げてしまっている部分があり、そのせいかそこまでグッとくることはなかった。光と影を巧みに使った映像表現は見事だったが、ストーリーは良く出来た昔話や落語みたいだった。「羅生門」などの当時世界で評価された日本映画とタイプがよく似ている。日本人的にはなじみのある話でも、外国の人には新鮮に感じたのだろう。
ラストは妹夫婦との対比が切なかった。妹夫婦も同様に悲惨な体験を経ているのだが、やっぱり人間は生きてこそだなと思わさせられる。真剣な面持ちでろくろを回す主人公の姿は、どこか映画「ゴースト」を思い起こさせて少し面白かった。
スタッフ/キャスト
監督 溝口健二
脚本 川口松太郎/依田義賢
原作 雨月物語 (岩波文庫)
出演 京マチ子/森雅之/水戸光子/田中絹代
撮影 宮川一夫
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