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「鑑識レコード倶楽部」 2017

鑑識レコード倶楽部

★★★☆☆

 

あらすじ

 週に一度レコードを持ち寄り、コメントや評価は禁止でただじっくりと鑑識するように音楽を聴く倶楽部を立ち上げた主人公と友人。原題は「The Forensic Records Society」。

 

感想

 コメントや評価を言い合うことなく、ただ持ち寄ったレコードを次々と聴くだけの倶楽部を立ち上げた主人公と友人の物語だ。皆で曲の感想を言い合ったり、思い出を語ったりするのも楽しいものだが、彼らはそういう主観的な感情は抜きにして、純粋に音楽だけを味わいたい、ということなのだろう。音楽の聴き方は人それぞれだ。ただ、彼らは集中してじっと聴くのかと思っていたのに、レコードがかかっている途中にビールを買いに行くのはOKなようで、基準がよく分からない部分はあったが。

 

 人も集まり最初は順調だった倶楽部だが、リーダーの友人が厳格なルールで運用したために不満が生じ、次々と分派や対抗組織が生まれていくのが面白い。まるで集合離散をくり返す宗教団体や政治団体、プロレス団体の比喩のようだ。人間模様も似ている。大きな目的に賛同して集結しても、そのうち細かな意見の相違が気になりだすのはよくあることだ。中には自分が実権を握りたいがためだけに別団体を立ち上げる人もいる。

 

 

 次々と起こる騒動に頭を悩ませる主人公たちの様子が、淡々としたタッチで語られていく。登場人物たちの心情に関する描写も少なく読み取りづらいのだが、彼らが持って来るレコードのタイトルがそれを示しているような、いないような絶妙なチョイスを見せている。本文中にはたくさんの曲名が挙げられるので、それらをよく知っていればもっと楽しめたのかもしれない。

 

 だが今は気になる曲があればネットですぐ聴くことができるので良い時代だ。そう思っていたら、Spotifyにこの小説に登場する楽曲を著者がまとめたプレイリストまであった。ますます良い時代だ。これを流しながら読むのも乙なものかもしれない。

 

 それから巻末に訳注も用意されていて理解の助けになったが、参照しにくい仕様だったのが残念だった。途中まで訳注があることに気付かなかった。

 

 レコード好きたちの独特の生態やマナーが語られるのも興味深いところだ。彼らのマナーには、勝手に他人のレコード棚をじろじろ見たり、断りもなくレコードを聴いてはいけないというものがあった。生態としては、寝る前にシングル曲を三回たて続けに聴くとか、時々、「タイトルにカッコが付いているもの」「フェードインで始まり、フェードアウトで終わるもの」等、ある条件に合致するレコードだけを順番にかけていく作業を行い、それを「プロジェクト」と呼んでいる、というものがあった。

 

 「プロジェクト」に関してはどんな意味があるのかよく分からないのだが、本人は至って生真面目にやっているのがなんだか可笑しかった。これは収集癖のある人のあるあるかもしれない。

 

 ラストは細かい事柄に囚われてしまっていた人たちが、初心に立ち返ってまた再び心を一つにすることができたということだろうか。

 

著者

マグナス・ミルズ

 

鑑識レコード倶楽部

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