★★★★☆
あらすじ
高校時代の同級生にずっと片思いをしているOLが、同僚の男性から告白される。
感想
自己完結する世界の中で生きてきた人間が態度を改め、現実世界と積極的に関わっていこうとすると、だいたいこの映画のようになりそうだ。だが、彼女は自ら同窓会を開いたりと積極的でよく頑張っている。世間と距離を取り、自分の世界を持って生きるというのもかなりのメンタルの強さが必要だから、それがうまく作用しているということだろうか。
そして頑張る彼女を見ていて思うのは、現実世界と折り合いよくやっていくべき事には、なるべく早く気付いておくべきだということだ。それに気付かず年齢を重ねれば重ねるほど、世間とのズレは大きくなっていく。そしてそれが本人の負い目となったり、落ち込む原因となったりして、ますます現実に立ち向かうことを困難にする。
映画中盤の、片思いの相手が自分の名前を知らなくて主人公がショックを受けるシーンはとても印象的だった。突然歌い始めてミュージカル風になりちょっと面白かったが、急に饒舌に心情を説明口調でセリフで言われるよりは、これくらいの違和感がある方が逆にしっくり来る。それに、ショックでちょっとおかしくなっているようにも見えて効果的な演出だった。
主演の松岡茉優が、オタクっぽい女子をリアルに演じている。コミカルさもあり面白かった。それから顔のアップの映像でも、小皺などを照明やメイクで消そうとしていないのも良かった。どこにでもいるような等身大の女性の姿が映し出されているようで、リアリティが感じられた。日本映画でこういうのは、あまり見ないような気がする。
相手役の渡辺大知も、基本的にはニヤニヤしているだけなのだが、なぜか憎めない雰囲気。それでいてちゃんと自分の言いたいことはしっかりと言うので男らしさもある。主人公と違うのは、自分ごときが、と卑下していない所か。
主人公が口にする、タイトルにもなっているセリフは、あまりピンとこなかったというのが正直なところだが、全体としてはなかなか良かった。現実世界に立ち向かう主人公の姿に共感したり胸に刺さったりと、心を動かされた。世の中はきれい事ばかりではないし、人々は嫌な姿を見せたりもするが、それにいちいち傷ついてはいられない。それらをぐっと呑み込みながら、力強く現実の世界を生きていくしかない。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 大九明子
出演 松岡茉優/北村匠海(DISH//)/渡辺大知(黒猫チェルシー)/石橋杏奈/趣里/前野朋哉/古舘寛治/片桐はいり
撮影 中村夏葉