★★★☆☆
あらすじ
婚期が遅れた女は、戦争で片腕を失った漫画家と結婚し、貧しい生活を送るようになる。
漫画家・水木しげるとその妻を描いた伝記映画。119分。
感想
吹石一恵演じる主人公の家に、見合いの話が持ち込まれるところから物語は始まる。親が結婚を決める時代だったとはいえ、傷痍軍人で今は漫画家の男に彼女を嫁がせようとさせられるのは、なんだか気の毒に思えてしまった。とはいえ彼女自身も、年齢的なものなどで決して条件が良い結婚相手とはいえなかったという事なのか。
国の傷病手当があるから苦労することはないだろうという打算が決め手だったが、それで彼女はその後、人気漫画家の妻となるのだから、人生は本当に何が起こるか分からない。人間万事塞翁が馬だ。
そして主人公は見合いをし、そのまま結婚してわずか数日で東京にやって来る。この間は展開が分かりづらくて、しばらく状況を把握するのに時間がかかってしまった。映画は全体的に説明が少なく、数少ないセリフや周囲の様子などから主人公の心情を読み取らせるようなスタイルとなっている。ぼんやりとしか分からないことが多いのだが、朝目覚めた主人公が帯を探して浴衣を着直すシーンは、色々なことが察せられて上手い演出だなと感心した。
ただ全体的には淡々と物語がすすみ、夫婦となった二人の距離も思っているようにはなかなか縮まっていかず、もどかし想いを抱えながら観ることになる。互いが互いになかなか踏み込んでいこうとせず、ただ一緒に暮らしているといった感じだ。とはいえ気が付けば、そんな二人もいつの間にか夫婦らしくなっているから不思議なものだ。男女の仲なんてそんなものだ。
妻の目を通して、夫である水木しげるが漫画家として大成していく姿が描かれていくのかと思っていたら、案外と早い段階でエンディングを迎えてしまったので、え、もう終わり?と少し面食らってしまった。だけど大抵の出来事の面白いところは頭と尻尾の部分なのだから、これ以上やっても大して面白くはならなかったのかもしれない。まだ何も始まっていないような気もしたが、それでもダレることなく最後まで見られたのだから物語に力はある。
それにまだこれからだろうと思ったのは水木しげるの漫画家人生としてであって、夫婦としてはここが最初のクライマックスだったのだろう。そんな夫婦関係が描かれる中、「怒ると腹が減る」と常に淡々としていた水木しげるが、時おり内に秘めた感情を爆発させるシーンがとても印象的だった。何も考えていないように見えてちゃんと戦っている。普段から怒鳴り散らしているような人よりも、こういう人の方が信用できるなと思わせられた。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 鈴木卓爾
原作
出演 吹石一恵/宮藤官九郎/坂井真紀/平岩紙/寺十吾/柄本佑/諏訪太朗/唯野未歩子/渡辺謙作/徳井優/戌井昭人/村上淳/南果歩
音楽/出演 鈴木慶一
登場する人物
水木しげる/武良布枝