BookCites

個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「鬼才 五社英雄の生涯 」 2016

鬼才 五社英雄の生涯 (文春新書)

★★★☆☆

 

内容

 「鬼龍院花子の生涯」「極道の妻たち」「陽揮楼」など数々の映画をを残してきた監督・五社英雄の生涯を紹介する。

bookcites.hatenadiary.com

 

感想

 五社英雄が、テレビ局社員としてドラマ制作で活躍してから映画界に進出したとは知らなかった。当時のテレビ番組の映像は、残っていないのが多いようなので、そういう情報を意図的に収集しなければ知ることが難しい。テレビは放送が終わってしまえば人々の目に触れる機会が極端に減り、やがて忘れ去られてしまう。それがテレビと映画の違いだろう。

 

 例えば、あと10年もすれば、国民的番組だった「笑っていいとも!」だって「なんですか、それ?」と言う若者で溢れるはずだ。現在、テレビドラマなどは配信を前提として制作されているので、状況は変わって来るのかもしれないが。

 

 テレビ時代、五社は模造刀や効果音を使った画期的な時代劇を作り、成功を収めていく。その中で興味深かったのは、音響効果を高めるために試行錯誤していた時のエピソードだ。人を斬った時の音を作るために、実際に戦時中に人斬りをしていた元軍人を探し出し、助言を求めている。時代を感じるすごい話だが、その元軍人はどんな顔をしてアドバイスしていたのだろう?と想像してしまう。まだまだ戦争体験者がたくさんいた時代なので、誰も特に違和感はなく、すんなりと受け入れていたのだとは思うが。

 

 そして監督が元々は「三匹の侍」や「人斬り」など、男臭い物語を作っていたのも知らなかった。個人的には後期の、女性キャストがたくさんでてくる女の情念を描いた一連の作品を監督した人、というイメージだった。エンタメを重視した監督なので、色々やってみた結果、人間味あふれるドラマに官能要素を加えることが出来るこれらの作品にたどり着いた、ということなのか。

 

 

 それから、長くなりすぎた映画を編集で短くしていく時、監督はインパクトのあるシーンを優先して残し、説明的なものからカットしていく方針だったようで、すごいなと感心してしまった。話のつながりが分かりづらくなるのを理解した上で、それでもカットしてしまうのはなかなか勇気がいるはずだ。映画の欠陥として批判されてしまうことだって予想できる。気取ったことや小難しいことを拒絶し、客を喜ばすことに情熱を傾けた監督らしいエピソードだ。刺激的なシーンが続く監督の作品は、確かにストーリーの欠陥を忘れて夢中になってしまう不思議な魅力がある。

 

 晩年の癌を患って死期が迫る中、それでも情熱を持って映画に取り組む壮絶な監督の姿には胸を打たれる。そんな監督をサポートし、何とか映画を撮らせようとしてくれる人がたくさんいるのがすごい事だ。最後まで映画作りにしがみつきながら、それでも最後の最後には、自らの死期を悟ってスパッとやめることを決断したのも監督らしいなと思った。

 

 本当は「そんなの今だったら完全にアウトだよ!」みたいな破天荒なエピソードをたくさん知りたかったのだが、本書ではそれほど多く紹介されていなかった。ただ五社英雄の監督人生の全体像を俯瞰的に知るには良い本だった。

 

著者

春日太一

 

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com