★★☆☆☆
あらすじ
エースを自負しながら働く航空管制官の男は、有能でミステリアスな新入りを意識するあまり、調子がおかしくなっていく。
原題は「Pushing Tin」。
感想
航空管制官たちの姿を描いた物語だ。航空管制官は責任の重い仕事で、たった一度のミスで数百人を死なせてしまう。主人公らの勤務するニューヨークは世界でもトップクラスの飛行機が飛び交うエリアなので、さらにその過酷さは増す。相当なプレッシャーにさらされ続けているせいか、皆どこか精神状態がまともでなく、躁状態で働いている。
厳しい仕事だが、皆ラフな格好で、歌を歌ったり筋トレをしたりしながら、のびのびと働いているのが印象的だ。また気軽に休むことも出来るようで、自由な雰囲気が漂う職場になっている。やりがいがありそうだ。ただでさえストレスフルな仕事なのだから、無駄に厳しい規律を課してさらにストレスを与えるべきではないとの判断なのだろう。もしかしたら規律を守れないような変人じゃないと務まらない仕事なのかもしれないが。
主人公はそんな管制室の中でエースを自負している。だが、そこに新しく加わった男の存在によって、公私ともにおかしくなっていく。ビリー・ボブ・ソーントンが演じるこの新入りな男は有能な上にどこかミステリアスで、スポーツも出来て歌も上手く、さらには若くて美人な奥さんまでいるのだから、皆の中心だった主人公が彼をライバルと意識してしまうのも分からなくはない。
ただ主人公が本格的におかしくなっていくのは、彼がライバルの奥さんに手を出してしまったことがきっかけだ。完全に彼が悪い。これに端を発する騒動が面白おかしく描かれていくのだが、その意図とは裏腹にその面白さがほとんど伝わって来ないのが辛いところだ。またそれ以外のサイドストーリーもさして笑えない。
これらの笑いがちゃんと成立していれば気にならなかったはずだが、失敗してしまっているのでプロットの脈絡のなさが目立ってしまっている。ライバルの男の描き方も中途半端だ。笑えないし、中身も薄いしと、すべてが裏目に出てしまった。話に脈絡がないのは、管制官たちがストレスでクレイジーになっているからだと解釈することも出来なくはないが。
それでもそれなりに悪くない映画だなと思っていたのだが、ラストの管制室から妻に呼びかけるシークエンスが酷すぎて腹が立ってきた。ロマンチックに締めたかったのかもしれないが、主人公の身勝手さが露わになっているだけだ。そもそもノーと言えない空気にしている時点で駄目だろう。脅迫と変わらない。それでもノーと言うなら見どころとなるが、そうはならない凡庸な展開だった。
この他にアンジェリーナ・ジョリーも出ている割と豪華な出演陣だが、その中でケイト・ブランシェットが普通の主婦役をやっているのがなんだか新鮮だった。しかも、それでもちゃんと存在感を放っているのだから彼女の凄さが分かる。
スタッフ/キャスト
監督 マイク・ニューウェル
製作 アート・リンソン
出演 ジョン・キューザック/ビリー・ボブ・ソーントン/アンジェリーナ・ジョリー/ケイト・ブランシェット/ジェイク・ウェバー/カート・フラー/ヴィッキー・ルイス/マット・ロス/ジョン・キャロル・リンチ