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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「ミスト」 2007

ミスト (The Mist) [JA-Subbed]

★★★★☆

 

あらすじ

 嵐のあとに息子と共にスーパーに買い出しにやってきた男は、立ち込めた霧の中で異常事態が起こっていることに気づき、他の客と共に店に立て籠もる。125分。

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感想

 霧の中にうごめく何かがいて、スーパーから出られなくなった人々の姿が描かれる。この何かは超常現象的な姿かたちのないものかと思っていたので、意外と早い段階で明らかになり、しかも姿かたちのあるものだったことに少し興ざめしてしまう部分があった。

 

 同じスティーヴン・キング原作の「ドリームキャッチャー」の時も同様のことを思ったが、彼はこんな感じの作品も書いているのか。ほとんどまともに読んだことがないので、なんとなく得体のしれない恐怖を書く人だと思ってしまっている。

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 店のまわりをうろつく怪物から身を守るために、皆が一致団結しないのがこの映画の肝だ。そうしてしまっては怪物映画やゾンビ映画の凡庸なストーリーと同じになってしまう。その代わりに描かれるのは、この恐怖に様々な反応を見せる人々の姿だ。

 

 現実を認めようとしない人、ここぞとばかりに自説を唱える人、なぜか日ごろの鬱憤をぶちまける人、そして何も考えずに声の大きな人たちの間をフラフラと行ったり来たりするだけのその他大勢の人たちと、危機に一致団結できない人々の姿が延々と描かれていく。分断する人びとに寂しいものを感じてしまうが、つい最近までコロナ禍で繰り広げられていた光景なので既視感がバリバリにある。そうなるだろうなと納得できてしまうのが悲しいところだ。

 

 

 そんな中では、最初はおかしな人扱いだったのに次第に人々を感化し、カリスマ性を帯びてくる狂信的なキリスト教信者の女が鬱陶しかった。世の中には宗教に限らず、陰謀論からマスクやワクチンなどにまで独自の言説を狂信的に説く信者たちがたくさんいるが、彼らは彼女のように一発逆転の日が来ると信じて頑張っているのだろう。冷たい視線を浴びれば浴びるほど発奮してしまうから厄介だ。

 

 しかし、他人を攻撃するために彼女が宗教を利用しているのは気分が悪い。たとえ神は信じてもお前だけは信じられないと言ってやりたくなる。得意げに宗教の話を喋りつづける彼女には心底うんざりしてしまった。

 

 徐々に怪物の正体が明らかになっていく中、主人公らのグループは、店の外へ出ていくことを決意する。しかし、それを決意させたのが外部の状況ではなく、女が力を持ってカルト集団化してしまった内部の事情だったのは皮肉だ。それでも、最後にちゃんと彼女に鉄槌を下したのは溜飲が下がった。

 

 これを行なったのも彼だが、トビー・ジョーンズ演じる一見冴えなさそうな店員が終始冷静な働きぶりを見せ、頼もしい存在だったのは良かった。この他にも老女が勇ましい姿を見せたりと、意外な人が活躍する痛快なシーンがあり、憂鬱な展開における一服の清涼剤となっていた。

 

 脱出後は、ヒッチコックの「鳥」を思わせるような展開からの悲壮な結末、そしてそこからの思わず声が出てしまうような大どんでん返しと、心をグワングワンと揺さぶってくる。映画の途中くらいから、もっと他にも出来ることが色々あるうだろうと薄々思っていたのだが、最後にそれが因果を結んでしまった。簡単にあきらめず、もっとジタバタするべきだった、となんとも言えない気持ちになったが、このどんよりとした後味は悪くない。

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スタッフ/キャスト

監督/脚本/製作 フランク・ダラボン

 

原作 「霧」 「ミスト 短編傑作選 (文春文庫)」所収

 

出演 トーマス・ジェーン/ローリー・ホールデン/ネイサン・ギャンブル/トビー・ジョーンズ/マーシャ・ゲイ・ハーデン/ウィリアム・サドラー/アンドレ・ブラウアー/ジェフリー・デマン/フランシス・スターンハーゲン/アレクサ・ダヴァロス/サム・ウィットワー/クリス・オーウェン/メリッサ・マクブライド

 

ミスト(字幕版)

ミスト(字幕版)

  • トーマス・ジェーン
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ミスト (映画) - Wikipedia

 

 

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