★★★★☆
あらすじ
父親とはぐれて行き場のない子供の面倒を押し付けられてしまった中年女。
感想
行く当てのない子供の面倒を見ることになってしまった長屋街に暮らす中年女が主人公だ。迷子の子供なんて警察に引き渡せばいいだけだろうと思ってしまうが、戦後の混乱した状況の中ではまともに機能していなかったのだろう。当時は親のいない戦争孤児も山ほどいたはずだ。
親とはぐれて途方に暮れる子供を可哀想だと連れ帰ったくせに、自分で面倒を見る気はさらさらなく、最終的に主人公に押し付けてしまった男はずいぶんと身勝手だったが、飄々としてどこか憎めないところがあった。この男を演じていたのは笠智衆だが、いつもの武骨な九州男児のイメージとは違い、髭を伸ばし、髪も少し長めで色気づいた雰囲気を出しており、珍しい姿だった。
主人公は嫌々ながら子供の面倒を見るようになる。それを敏感に察知し、追い出されないよう必死に頑張る子供とのやりとりがコミカルで面白い。そして主人公を演じる飯田蝶子の、子供を脅かし叱りつける時の顔がいい。ただの怒りではなく、困惑や同情や愛情が入り混じった人間味あふれるなんとも言えない顔をしている。悪い人ではないことが伝わってくる。
迷惑がっていた主人公だったのに、最終的に子供に情が移ってしまうのは人情劇定番の展開だ。しかし、誤解して子供を叱ってしまったり、子供の健気な姿を見せたりして、主人公の心が傾いていく過程がうまく描かれている。そしてそれで終わらせず、せっかくその気になった主人公の気持ちをいなしてしまうような結末には、世の中のままならなさを感じさせるものがあった。それなのにそれでも良かったと子供のために泣く主人公の姿には、こちらまで目頭が熱くなる。
子供を連れ帰った男もそうだったが、面倒事は頑なに拒んで主人公に押し付け、その後は全くの他人事、その上偉そうに分かったような口まで利く長屋の男たちのいい加減ぶりが印象に残る映画でもある。全然内容にふさわしくないタイトルだが、もしかしたら嫌味が込められていたのかもしれない。
その他にも主人公が世の中に対する批判めいたことを口にするシーンもあり、この映画にはこんな状況を生んだ男たち、そして国に対する監督なりの怒りが込められているような気がした。これは監督の戦後の最初の作品でもある。
それから戦後の焼け野原の中にそびえたつ異様な建物が気になったが、あとで調べたら築地本願寺だった。荒れ野にポツンと建っていると印象が全然違う。これもまた意図的に映像に取りこんだのだろう。洒落た湘南ではなく、昔のど田舎の茅ケ崎・江の島の風景が見られることも興味深い。
スタッフ/キャスト
監督/脚本
脚本 池田忠雄
出演 飯田蝶子/青木放屁/河村黎吉/吉川満子/坂本武/谷よしの/殿山泰司
撮影 厚田雄春