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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「人間とは何か?」 1906

トウェイン完訳コレクション 人間とは何か (角川文庫)

★★★☆☆

 

内容

 人間とは何か?について語り合う老人と若者。  

 

感想

 人間は外部の刺激に対して自動的に返す機械に過ぎないと主張する老人と、それに反発する若者の会話が繰り広げられる。老人が新しい考え方を示し、若者が当時の一般的な考え方を代表していると言えるのだが、今読むと老人が至極普通のことを言っているように感じ、逆に若者の言っていることに違和感を感じてしまう。

 

 若者は人間は機械なんかじゃない、思いやりの心を持っているし自己犠牲の精神もある崇高な存在だと主張する。動物となんら変わらない、なんてとんでもないと慌てふためく様子を見ていると、それまで人間は必至で崇高な存在であろうと努力してきたのだなという事が良く分かる。

 

 

 当時はまだまだ宗教の影響が強かったという事だろう。この反応を見ていると、ダーウィンの人間は昔は猿だったという説が大きな反発を生んだというのも頷ける。未だにそれを受け入れられない宗教もあるわけで。しかし、人間は猿から進化したのではなく、神が作ったというのはとんでもない歴史修正だ。当時は言葉や文字といったそれを伝える術がなかったので責められないが。ただ真実を知ってどうするかで、その人が分かるという所はある。

 

老人 謙虚で、真剣で、誠実な「真理の探究者」は、いつだって改宗ができるのだ、こんな手段を使ってね。

p142

 

 老人の人間は機械だ、だから元々の性能と鍛錬によって決まる、というのは大体共感できる。ただ、インプットしたら勝手に出てくる機械なので、勝手に生じる成果に対して喜んだり誇ったりするのはおかしい、とまで卑下する事はない。それでもやっぱりそれを生み出せるのはその人だけだし、感情も機械に組み込まれているはずなので、それがあるから作動する機能もあるといえる。

 

 そもそも一人の人間をいくつかに分けて考えるのがどうかなと思ってしまう。分解して部分的に見ていくことは大事だが、最終的には組み立て直して全体を見ないと駄目だろう。

 

 ちなみに本編が終わった後の「訳者あとがき」がショッキングな内容で、ここでも「人間とは何か?」と考えることになってしまった。ちなみにその後2018年に逝去されたようで、想定より一年以上も生きられたことになる。

 

著者

bookcites.hatenadiary.com

 

翻訳 大久保博

 

 

 

登場する作品

「イン・ザ・スイーート・バイ・アン・バイ(In the Swee-eet By and By)」

 

  

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