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「ノマドランド」 2021

ノマドランド (字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 夫を亡くし、住んでた町も閉鎖されてしまった女性は、車で寝泊まりしながら短期の仕事を求めて各地を移動する生活を送るようになる。

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 アカデミー賞作品賞、監督賞、主演女優賞。ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞。108分。

 

感想

 アメリカ各地を車で移動しながら働き暮らす人々を描いた物語だ。まさに現代の遊牧民(ノマド)といったところだが、大自然の中で自由気ままに暮らすロマンあふれるものかと思っていたらだいぶ様相が違う。

 

 彼らの多くは高齢で決して裕福ではなく、それをやりたくてやっているというよりも、選択肢が限られている中でその生き方を選ぶしかなかったという印象が強い。2008年のリーマンショックをきっかけにこの暮らしを始めた女性もそうだった。きっと彼らは自然と触れ合うことが元々好きではあるのだろうが、だからといって裕福だったらきっとこの生活は選んでいなかったはずだ。

 

 

 旅の途中で主人公が知り合った男がそうだったように、子どもやその家族など迎えてくれる人たちがいるなら、家のある生活に戻る人も多いように思う。そして大自然のことなど忘れて、悠々自適な暮らしに満足して余生を過ごす。

 

 ノマド生活の中で主人公は、息をのむような絶景を目にしたり、渓谷で裸で泳いだり、大自然の中に沈む夕日を眺めて黄昏れたりと、普通ではなかなかできないような体験をして、確かに満喫してはいる。

 

 だが、ただ旅を楽しむのではなく、生活のために各地で働く必要があるところにしんどさを感じる。そしてそんな彼らが働く場所に繁忙期のアマゾンの倉庫があるのは皮肉だ。資本主義の過剰な消費社会から距離を取る彼らが、まさにその象徴ともいえる場所で生きるための糧を得ている。

 

 主人公らにどこか暗い影が付きまとうのは、高齢であることが大きいだろう。歳を重ねればどんどん仕事を見つけるのが困難になっていくだろうし、病気の可能性も高まっていく。そのうちなんとかなるだろと思える若者とは違う。明るい未来を描けない。

 

 ただ、そんな彼らが互いに助け合おうとする意識が高かったのは救いだ。同じ境遇の人たちが集まって生活のアドバイスや情報交換する場があったり、出会えば同じ仲間として声を掛け合う文化が醸成されている。主人公も困っていそうな人を見かければ声をかけていた。また一般の人の中にも、彼らを気にかけ助けようとする人たちが各地にいた。

 

 元々の国民性もあるだろうが、こういう連帯感があるからこそ彼らはなんとかやっていける。すぐに自己責任だとか、目障りだから出ていけとか言い出すような社会では未来はない。

 

 彼らをこの生活に追いやった背景に社会の闇を感じてしまう映画だ。だがそれを脇に置くなら、これもひとつの生き方として悪くないのかもしれない。自然界の生物のように気付かぬうちにいなくなり、やがて朽ち果てて土に返っていく。人間だとそう簡単にはいかないのだろうが、それでもそう望む人がいるならそうやって生きる選択肢があってもいい。

 

 望まないのにそうせざるを得ない人たち、そう望んでいるのだと思い込まなければいけない人たちがいるのだったら、それは確実に不幸な社会だが。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/製作/編集 クロエ・ジャオ

 

原作 ノマド: 漂流する高齢労働者たち

 

製作/出演 フランシス・マクドーマンド/ピーター・スピアーズ

 

出演 デヴィッド・ストラザーン/リンダ・メイ/シャーリーン・スワンキー

 

ノマドランド (字幕版)

ノマドランド (字幕版)

  • フランシス・マクドーマンド
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ノマドランド - Wikipedia

 

 

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