BookCites

個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「当たりや大将」 1962

当りや大将

★★★★☆

 

あらすじ

 大阪・釜ヶ崎で当たり屋をしながらその日暮らしをする男は、行きつけのホルモン屋の女将が子供の教育のために貯金していることを知る。

 

感想

 釜ヶ崎が舞台となっている。序盤の釜ヶ崎を紹介する映像はなかなか強烈だ。おそらく演出ではなく、現地のいつもの光景をドキュメンタリー風に撮っただけだと思うが、酔っ払って地べたでガチ寝する人などにはドン引きしてしまった。

 

 そしてとにかく人が多いのが印象的で、皆ずっと所在なさげにボーッと立ったり座り込んだりしている。今はこんな風に特に目的もなく外にいる人なんてなかなか見ない。当時は家にいてもテレビやスマホといった娯楽があるわけでもないので、どうせ暇をつぶすなら何かが起きるかもしれない外にいた方がいいとなるのだろう。

 

 そんな町で当たり屋をして暮らす男が主人公だ。通りがかった車の持ち主の金持ちから大金をせしめ、その日のうちに女や博打でパーッと使ってしまう。全然悪びれる様子がなくてこれまたドン引きしてしまうが、ある意味では清々しくもある。

 

 

 ちなみにこの主人公の、駕籠か屋台のような寝ることしか出来ない小屋とも言えないような家もすごかった。それでも持ち家があるだけ良い方なのかもしれない。

 

 主人公はある日博打で大きな借金を背負ってしまい、行きつけの飲み屋の女将が子供のために貯めていた大金を騙し取る。その後、背広を買い散髪して身なりを整えていたので、この金を元手に詐欺でもやって、大金を稼ぐつもりなのかと思っていたのだが、ただ女と豪遊するだけだったのには驚いた。はなから使い込む気で、お金を返す気はまったくない。

 

 その後は普通に女将の店に飲みに行くし、聞かれたらあっさりと使っちゃったと打ち明ける。身近な人の大事な金を使い込んでおきながら平然としていて、善悪の観念はないのかと怖くなった。

 

 今でもたまに気軽に軽犯罪をする人を見かけてビビることがあるが、昔はこういう人がたくさんいたのだろうなと思ってしまった。きっとこれは世界共通で、社会が発展してく過程に倫理観よりもたくましさの方がプライオリティが高いステージがあるような気がする。

 

 ここまでもなかなか先が読めない展開だったが、ここからがさらにすごかった。急に黒澤明の「生きる」のような展開になっていく。それまで、女将が登場するたびに何かと「雪の降る街をー」と歌うので若干くどく感じていたが、その伏線がここで効いてくる。

bookcites.hatenadiary.com

 

 終わってみると、誰も死なせずに済ますことは出来なかったのかと思ってしまうくらい、皆の動きは鈍かった。特に警察はもっと早く動くべきだったと、もどかしさが残る。だが、まだまだ発展途上で不幸も多かっただろう昭和のこの時期は、これくらいの結末の方がリアルに感じられるのかもしれない。終盤はグッとくるような映像が、人間ドラマを引き立てていた。

 

スタッフ/キャスト

監督 中平康

 

脚本 新藤兼人

 

出演 長門裕之/轟夕起子/頭師佳孝/浜村純/中原早苗/杉山俊夫/玉村駿太郎/近江大介/杉山元/武知杜代子/神戸瓢介/嵯峨善兵/宮崎準/加藤武/大滝秀治

 

音楽 黛敏郎

 

撮影 姫田真佐久

 

当りや大将

当りや大将

  • 長門裕之
Amazon

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com