★★★★☆
あらすじ
1300年代後半、フランス。妻を暴行されたと訴え、かつての親友と決闘裁判を行うことになった騎士。
事実を基にした作品。原題は「The Last Duel」。153分。
感想
騎士とその妻、そして妻を暴行した元親友の三人の物語だ。決闘裁判に至るまでの経緯を三人それぞれの視点で順番に描いていく。いわゆる「羅生門」スタイルの映画だ。
親友だった男が領主に気に入られ、それをいいことに騎士の領地や代々任されてきた職を奪い、しまいにはその妻にまで手を出した、というのが大まかな事件のあらましになっている。
これをそれぞれの視点から順に見ていくことで、事件の解像度が上がっていく。親友は調子に乗っていたわけではなく、騎士を嫌う領主に逆らえず、その嫌がらせに利用されただけだったことが分かってくる。だが、微妙なすれ違いが続き、頑なとなってしまった騎士との関係を修復できなかった。
ただ、それぞれの視点で一通り見た後で、事件に対する印象が大きく変わったかといえばそうでもない。大して変わらなかった、というのが正直な感想だ。それぞれの言っていることがもっと違って、本当は誰が正しいのだ?と混乱する展開を期待していたので、少々拍子抜けしてしまった。
特に妻が襲われた件に関しては、三者三様に言っていることが全然違った方が謎が深まって良かったような気がする。だが三人の言っていることはだいたい同じだった。ただ元親友だけが、相手が拒まなかったからと付け加えていて、こういう時の男の言い訳の常套句を言っている時点で、悪いのはこいつで間違いないなと自分の中で結論づけてしまった。これでは誰が悪いのだ?と謎が深まる余地はない。
だがこれは、わずかなすれ違いや些細な誤解が、命を懸けた決闘裁判になってしまう人生の数奇さを味わう物語なのだろう。人間関係やコミュニケーションの難しさも痛感する。自分が望むように他人は見てくれないし、違う意図を読み取っていたりもする。一旦こじれた関係を元に戻すのは難しい。
クライマックスの決闘は、まさに死闘といった趣で見ごたえがあった。期待通りの決着となったが、逆の結果もあり得たのだと思うと、爽快感よりも安堵感の方が大きかった。どんよりとした後味が残る映画だ。
スタッフ/キャスト
監督/製作
脚本/製作 ニコール・ホロフセナー
脚本/製作/出演 ベン・アフレック/マット・デイモン
出演 アダム・ドライバー/ジョディ・カマー/マートン・チョーカシュ/ジェリコ・イヴァネク/ナサニエル・パーカー/マイケル・マケルハットン/クライヴ・ラッセル
登場する人物
ジャン・ド・カルージュ/ジャック・ル・グリ/ピエール2世/シャルル6世/イザボー・ド・バヴィエール