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「シーソーモンスター」 2019

シーソーモンスター (中公文庫)

★★★★☆

 

あらすじ

 バブル時代の嫁姑問題を描いた表題作と郵便配達人が巨大な陰謀に巻き込まれる「スピンモンスター」の2つの中篇を収録。

 

 共通する世界観で8人の作家がそれぞれ異なる時代の物語を描く「螺旋プロジェクト」の作品のひとつ。本書の二つの物語はそれぞれ昭和後期と近未来の時代が描かれている。

www.chuko.co.jp

 

感想

シーソーモンスター

 よくある嫁姑問題が描かれていくのかと思いきや、淡々と明かされる主人公の奥さんの突飛な正体に思わずニヤリとさせられた。そういうことであれば主人公の母親も?とその後の展開は読めてしまったが、終盤に仲が悪いはずの嫁姑が、肩を並べて仲良く主人公の前に現れるシーンは笑えた。窮地で死を覚悟していた主人公がそれを幻影だと勘違いし、それでも二人の仲の良い姿が見られたことに涙する。

 

 設定としてこの嫁と姑は敵対する種族同士なのだが、夫(息子)が二人をつないでおり、それでも何とかうまくやらなければならないと焦る妻のジレンマが描かれている。これは普通の嫁姑問題と何ら変わらないわけだが、最終的に妻が選んだ方法が正しい解決方法なのだろう。

 

 

 なんとなく人は誰とでも仲良くしなければならないと思い込んでいるが必ずしもそうではなく、それよりも両者がストレスなく破綻しない関係を維持できる方が重要だ。それはたとえ血を分けた家族だろうが、愛する人の肉親だろうが変わらない。相手の懐に何がなんでも入りこもうとするよりも、お互いが平静でいられる距離をしっかりと保とうとする方が上手くいく。

 

 そういえば昔「友達100人出来るかな」という歌の一節があったが、今思うと友だちよりも、何かあった時にちょっとした話が出来る程度の知り合いが100人いた方が、より良い人生を送れるような気がする。

 

スピンモンスター

 近未来が舞台で、主人公は手紙を届ける郵便配達人だ。デジタルが便利で当たり前になりすぎて逆に信用されなくなり、アナログな郵便配達人が重宝されるという興味深い世界観だ。

 

 だが、色々と便利になっていく世の中で、昔の方が良かったと思ってしまうことも多い。例えば、今ではコンビニやスーパーで簡単に食材が手に入るが、何日も前に加工された食材を使って料理する現代人よりも、その日採れた魚を捌いて食べていた大昔の人の方が、旨いものを食っていたような気がしてしまう。少なくとも今では贅沢だとされる事だろう。

 

 政府が追っている人物の依頼を受けたことから、主人公は事件に巻き込まれてしまう。善良なる市民がわけも分からないまま、大きな陰謀のうねりの中に飲み込まれてしまうという伊坂作品ではよく取り上げられるテーマの物語だ。不安と恐怖の中で何とか状況を打開しようと、必死に足掻く。

 

 そんな中で、何かと不運に見舞われる男だと思っていた主人公のイメージががらりと変わるような事実も明らかになっていくのが面白い。主人公が単なる気の毒の男ではなくなっていき、悪い奴だとばかり思っていた敵対する設定の警官に対して、同情の気持ちが生まれていく。

 

 主人公と刑事、対立が運命づけられた両者に対する感情がフラットになりつつある頃にクライマックスがやって来る。主人公にすれば完全にバッド・エンドなのだが、でもまだその先がありそうな、微かな希望が残る結末だった。後味は悪くない。

 

著者

bookcites.hatenadiary.com

 

 

 

登場する作品

眠れる森の美女 シャルル・ペロー童話集 (新潮文庫)

オツベルと象

 

 

関連する作品

「シーソーモンスター」(昭和後期)

螺旋プロジェクト 前作(昭和前期)

コイコワレ (中公文庫)

 

螺旋プロジェクト 次作(平成)

 

「スピンモンスター」(近未来)

螺旋プロジェクト 前作(平成)

 

螺旋プロジェクト 次作(未来)

 

 

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