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「昭和の犬」 2013

昭和の犬 (幻冬舎文庫)

★★★☆☆

 

あらすじ

 戦後に生まれた女性の犬との関わりを中心とした半生が描かれる。直木賞受賞作。 

 

感想

 一匹の犬と飼い主の関係を描いた物語ではなく、その時々に主人公の身近にいた毎回違う犬との話が描かれていく。それは家で飼っている犬だったり、近所や下宿先で飼われている犬、散歩の途中で出会う犬など様々だ。それを通して、人間と犬との関係が変わってきている事がわかって面白い。

 

 戦後すぐの頃は、近所をうろついている犬に餌をあげているだけで飼っている、と言っていたのに、やがて金持ちのステータスとなるような犬が現れ、そして室内犬が現れ、次第に今のようなペットの飼い方へとなっていく。段々と家族とみなすようになっていったという事だろうか。

 

 愛情のかけ方が変化していったとも言えるが、最初の頃は飼っているつもりの犬がいなくなっても、保健所にでも連れていかれちゃったかな、残念だな、とかケロッとした顔で言っていて驚いてしまう。これは主人公の父親のエピソードだったが、主人公に限って言えば、犬に対する並々ならぬ思い入れは感じつつも、時代が変わっても接する態度は常にどこか距離を保っていてドライだ。犬好きにありがちな愛情ダダ洩れで骨抜き状態になるわけではない。おかげで読んでるこちらの犬に対する思い入れが特に強くなくても、好感を持って読むことができる。

 

 

 主人公の幼少の時から始まり、小学生、高校生、大学生へと年齢を重ねていく。そのころまでは特に何の意識もなく読み進めていたのだが、やがて30代を迎え、40代後半と続いていくと、一気に人生の重みというやつがどーんと感じられるようになった。なんだか不思議な気分だが、若さを失うにつれ、それが粉飾していた人生のリアリティがはっきりと見えるようになるからだろうか。

 

「子供ってしつこいのよ。いじめるのはこいつだと決めたら集中攻撃するの」

単行本 p193

 

 犬との関わりで出てきた言葉だが、これはSNSでもよく見かける光景で子どもに限らないよな、と思った。特殊なグループの中でこいつは叩いていい、みたいな了解が出来上がると、その対象が何か言ったら、内容に関わらず何も考えずに条件反射で叩いている。きっと子供だけがしつこいのではなく、人間自体がしつこいのだ。多くは大人になるにつれて分別を身につけるのだが、そうではない人がかなりの数でいるという事だろう。もしくは普段は分別があるのだが、あることに関してだけは分別を失ってしまうとか。

 

 親からも愛されず恋愛にも恵まれず年齢を重ねた主人公の姿に、心のどこかで気の毒だなと思ってしまうのだが、でも実際の所、それがどうかは本人にしかわからない事だ。人の事を勝手に判断するのはしない方がいい。不幸に見えても当人の心を覗けば、満ち足りていることだってあるのだ。

 

著者

姫野カオルコ
 

 

昭和の犬 (幻冬舎文庫)

昭和の犬 (幻冬舎文庫)

 

 

 

登場する作品

「ひばりに寄す」 パーシー・ビッシュ・シェリー

フランケンシュタイン (光文社古典新訳文庫)

  

 

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